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「商品先物取引法施行規則」及び「商品先物取引業者の監督の基本的な指針」改正案に対する意見書
2014.04.22
「商品先物取引法施行規則」及び「商品先物取引業者の監督の基本的な指針」改正案に対する意見書
 
 当会は,2014年4月5日付で,経済産業省及び農林水産省において公表され,意見募集がなされている「商品先物取引法施行規則及び商品先物取引業者等の監督の基本的な指針」の改正案(以下「本改正案」という。)について,以下のとおり意見を述べる。

 
第1 意見の趣旨
   商品先物取引法(以下「商先法」という)が適用される個人顧客を相手方とする商品先物取引について,不招請勧誘(顧客の要請を受けない訪問・電話勧誘)の禁止規定を大幅に緩和する商品先物取引法施行規則(以下「規則」という)改正案(第102条の2)に反対する。
 
第2 意見の理由
  1 商先法は,第214条第9号において,商品取引契約の締結の勧誘の要請をしていない個人顧客に対し,訪問し,又は電話をかけて,商品取引契約の締結を勧誘すること(不招請勧誘)を原則として禁止し,「委託者等の保護に欠け,又は取引の公正を害するおそれのない行為」として,規則第102条の2に定める行為についてのみ,不招請勧誘禁止規定の例外を認めている。
     本改正案は,現行の規則第102条の2で、当該業者との間で同種取引を継続的に行っていた顧客に対してのみ認められていた不招請勧誘について,当該業者のみならず他の業者との間でも同種取引を行っていた場合にまで例外となる範囲を拡大するとともに(同条第1号),新たに第2号を設け,(1)顧客が70歳未満であること,(2)基本契約から7日間を経過し,かつ,取引金額が証拠金の額を上回るおそれのあること等についての顧客の理解度を確認したことのいずれも満たす場合を,新たに例外として加えるものである。
  2 しかしながら,そもそも,商品先物取引における不招請勧誘禁止規定は,商品先物取引による深刻な被害が長年にわたって発生し,度重なる行為規制強化のもとでもなおトラブルが解消しないため,与野党一致のもとで,2009年7月の商先法改正により導入されたものである(2011年1月施行)。
     しかも,同法改正の際の国会審議において,「商品先物取引に関する契約の締結の勧誘を要請していない顧客に対し,一方的に訪問し,又は電話をかけて勧誘することを意味する「不招請勧誘」の禁止については,当面,一般個人を相手方とする全ての店頭取引及び初期の投資以上の損失が発生する可能性のある取引所取引を政令指定の対象とすること。」「さらに,施行後1年以内を目処に,規制の効果及び被害の実態等に照らして政令指定の対象等を見直すものとし,必要に応じて,時期を失することなく一般個人を相手方とする取引全てに対象範囲を拡大すること。」との附帯決議もなされている。
     それにもかかわらず,不招請勧誘禁止規定の例外の範囲を,この度の経済産業省及び農林水産省の本改正案のように拡大することは,個人顧客に対する不招請勧誘を実質上解禁するに等しい結果を招来し,法律が個人顧客に対する無差別的な訪問電話勧誘を禁止した趣旨を没却しかねないものである。
  3 規則第102条の2第1号について
   まず,本改正案は,ハイリスク取引の経験者に対する勧誘を不招請勧誘禁止の適用除外とする規則第102条の2第1号において,現行の規則第102条の2が「当該業者と継続的取引関係にある顧客」についてのみ不招請勧誘禁止の例外を認めているものを,「既契約者」として,当該業者に限ることなく,単に取引経験があった場合にまで例外の範囲を拡大する内容となっている。
   しかし,単なる取引経験者にまで広く例外を認めてしまうと,取引経験が非常に浅い者や取引を相当以前に止めている者、さらには取引被害に遭った者にまで不招請勧誘を行うことが認められることになってしまう。過去にごく僅かの取引経験があるだけで取引経験者として扱い不招請勧誘禁止の例外とすることは,経済産業省の監督指針が直近の3年以内に延べ90日以上の商品先物取引の経験がない顧客を取引未経験者と同列に扱い新規委託者保護の対象としていることとも整合しない。また,顧客と他の業者との取引経験については,正確かつ具体的な内容を勧誘する業者が知ることが困難であることから,客観的資料による確認もないままに不正確な情報に基づいて不招請勧誘がなされるおそれもあり,自社以外の商品先物取引業者との間でハイリスク取引の経験があると申告させ、自社との商品先物取引契約を締結させる恐れもあるから反対である。
 4 規則第102条の2第2号について
   次に,本改正案は,規則第102条の2第2号で,勧誘の対象者が70歳未満であることを確認の上,7日間の熟慮期間を設け,かつ顧客の一定の理解度を確認した場合を不招請勧誘の例外に加える。
     熟慮期間を設けることは,一見個人顧客に対する配慮を示したかにも見える。しかし,過去には同様の熟慮期間を設けた「海外商品市場における先物取引の受託等に関する法律」(現在は商先法に統合)が存在したが,同法における熟慮期間の定めは本改正案の2倍の14日間とされていたにもかかわらず,顧客保護のためにはほとんど機能していなかった。また,取引内容についての顧客の理解度の確認は,商品先物取引業者の判断で行うものであって,恣意的な判断を招きかねず,顧客の保護として十分なものであるとはいえない。現在も商先法218条で商品先物取引業者の顧客に対する説明義務が定められており、書面による理解度の確認もこれまで行われてきた方法であるが、いずれも被害防止の点ではほとんど機能していないという実情もある。
     そもそも,法律は,例外的に「委託者等の保護に欠け,又は取引の公正を害するおそれのない行為として主務省令で定める行為」(商先法214条第9号括弧書き)を定めることを規則に委ねているに過ぎない。本改正案は,熟慮期間を形式的に設けることにより,70歳未満の個人顧客に対する電話又は訪問による不招請勧誘を事実上解禁するようなもので,法律自体の改正を行うに等しい。このような改正は,国民の代表者たる国会において十分な審議を経て行われるべきことであって,規則の改正という形で行うことは,法律の委任の範囲を超えていると言わざるを得ないもので反対である。
   しかも,本改正案は,商品先物取引業者が70歳以上の顧客に対して勧誘目的で電話又は訪問すること自体を禁止しておらず,商品先物取引業者が,顧客に勧誘目的で無差別に電話又は訪問を行って顧客との接点を持った後,当該顧客が70歳以上であった場合には,後日,当該顧客から商品先物取引を行いたいとの自主的な申出があったとして取引を開始させるといった潜脱行為がなされることも容易に予想されるものである。
 5 本改正案では,商品先物取引業者等の監督の基本的な指針の改正案も公表されており,同監督指針案は,2−4−2(4)(2)イにおいて,顧客が70歳未満か70歳以上かを問わず,給与所得等の定期的所得以外の所得である年金,恩給,退職金,保険金等により生計を立てている者とは契約できないとしている。
   しかし,監督指針で契約できないとされただけでは実効性が不十分であり,まず商品先物取引業者が,顧客から,給与所得等の定期的所得により生計を立てていることを客観的資料により確認することが義務づけられるべきである。
   さらに,商品先物取引による被害者は年金生活者等に限られないから,監督指針によって年金生活者等に対する勧誘を不適当な勧誘として位置づけたとしても,それだけでは被害の発生を防ぐことはできない。従って、監督指針の改正は規則の改正を正当化できるだけのものではない。
  6 しかも,今回の不招請勧誘禁止規定の見直しは,経済産業省に設置された産業構造審議会の商品先物取引分科会が2012年8月に取りまとめた報告書の内容にも反するものであり,見過ごすことのできないものである。
     すなわち,同報告書では,「不招請勧誘の禁止の規定は施行後1年半しか経っておらず,これまでの相談・被害件数の減少と不招請勧誘の禁止措置との関係を十分に見極めることは難しいため,引き続き相談・被害の実情を見守りつつできる限りの効果分析を試みていくべきである」,「将来において,不招請勧誘の禁止対象の見直しを検討する前提として,実態として消費者・委託者保護の徹底が定着したと見られ,不招請勧誘の禁止以外の規制措置により再び被害が拡大する可能性が少ないと考えられるなどの状況を見極めることが適当である」とされ,商品先物取引に関する不招請勧誘規制を維持することが確認されている。
     しかるに,現在でも,業者が個人顧客に対して,金の現物取引や損失限定取引を勧誘して顧客との接点を持つや否や,すぐさま通常の先物取引を勧誘し,多額の損失を与える被害が数多く発生している状況があり,このような事情に鑑みれば,同報告書が見直しを検討する前提とした「実態として消費者・委託者保護の徹底が定着したと見られ,不招請勧誘の禁止以外の規制措置により再び被害が拡大する可能性が少ないと考えられるなどの状況」には到底至っていないといえる。
  7 当会は,2013年11月13日付け「商品先物取引についての不招請勧誘禁止撤廃に反対し,改正金融商品取引法施行令に同取引に関する市場デリバティブを加えることを求める会長声明」で,商品先物取引についての不招請勧誘規制を維持するよう求めた。同様の意見は,日本弁護士連合会や各地の単位弁護士会および数多くの消費者団体からも発表されている。
   内閣府消費者委員会も,2013年11月13日付けの「商品先物取引における不招請勧誘禁止規制に関する意見」で,「仮に商品先物取引における不招請勧誘禁止規制が金融デリバティブ取引に係る規制と同程度に緩和されると被害が再び増加することが予想される一方,商品先物取引に係る現状の不招請勧誘禁止規制の存続によって市場の健全な発展が阻害されるとは言えないため,不招請勧誘禁止規制を緩和すべきではない」と述べているだけでなく,本年4月8日付けで,今回の改正案が,消費者保護の観点から見て重大な危険をはらむものであり,再考を求める旨の意見書を公表している。
  8 前述のとおり,今回の改正案は,2009年7月に商先法の改正により導入された不招請勧誘禁止規定を骨抜きにするもので,法律が省令に委任した範囲を逸脱するものというべきであり,また,前記産構審分科会の報告書や内閣府消費者委員会の意見書,日弁連・弁護士会や消費者団体の意見をも無視するものであって,時期尚早で有り到底認めることが出来ない。
   そもそも、商品先物取引は、証拠金取引であるため、わずかな価格変動により多額の損失が生じる危険のある取引であり、また、商品の価格変動を一般消費者が予測することが極めて困難な性質の取引でもある。そのため、一般消費者が不招請勧誘により、取引に引き込まれ、深刻な被害を被ってきた経緯がある。そして、不招請勧誘の禁止を導入するまで、被害の防止が図れなかったのである。
   形式的な熟慮期間の設定による,70歳未満の個人顧客に対する訪問電話勧誘を許容するような立法事実が存在している事情もなく,今回の改正案の提示は,透明かつ公正な市場を育成し,委託者保護を図るべき監督官庁の立場と相容れないというほかはない。
     それ故,当会は,個人顧客の保護の観点から,商品先物取引の不招請勧誘禁止規定を骨抜きにするような今回の商品先物取引施行規則第102条の2の改正提案には強く反対する。
 

 2014年(平成26年)4月22日

    岡山弁護士会            

     会長 佐々木 浩 史

 
 

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