(2010.05.12)労働者派遣法抜本的修正を求める会長声明
1 派遣労働者に関する契約の打切り,いわゆる「派遣切り」が社会的な問題となる中,労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(以下「労働者派遣法」という。)等の一部を改正する法律案(以下「改正法案」という。)が,2010(平成22)年4月6日,衆議院に提出され
た。
しかしながら,改正法案は,派遣労働者の保護,雇用の安定を目的とすることを明記するものの,派遣労働者の低賃金・不安定雇用を解消し,雇用と生活基盤を守るという見地に照らして極めて不十分な内容であり,生存権(憲法25条)と勤労の権利(憲法27条)を実質的に保障するものとなっていない。
2 まず,改正法案は,登録型派遣を原則として禁止するものの,なお例外として26業務を対象とする登録型派遣を存続させている。
しかしながら,登録型派遣については,飽くまでも正規雇用を原則とする労働者派遣の本質に反するという批判も有力になされているところであり,仮に例外を許容するとしても,真に専門的な業務に限定されていなければならない。この点,現行の専門26業務には事務用機器操作やファイリングといった,もはや専門業務とはいえないものも含まれるなど広範な例外が許容されており,厳格な見直しが必要である。
3 また,改正法案は,製造業務の労働者派遣を含めて,常用雇用の労働者派遣を例外として認めている。
しかし,そもそも,製造業務派遣は,雇用調整の影響を最も受けやすく,雇用が極めて不安定なものとなるから,本来は全面的な禁止をすべきものである。
また,仮に例外を認めるとしても,安定した雇用が確保される場合に限定されなければならない。この点,改正法案には,常用雇用の定義規定が定められていないところ,従来の行政解釈上は,有期雇用であっても1年以上雇用されている場合や採用時点で1年を超える雇用見込みがあれば,常用雇用として取り扱うものとされており,かかる解釈の下では,短期の有期雇用であっても常用雇用として製造業務の労働者派遣が可能ということにもなりかねない。製造業務の労働者派遣を常用雇用の場合に例外的に許容するのであれば,常用雇用につき明確な定義規定を置き,期間の定めのない雇用契約に限定すべきである。
4 さらに,改正法案は,違法派遣の場合における直接雇用申込みのみなし規定を置くが,直接雇用後の労働条件につき,派遣元の労働条件と同一とするのみで,雇用契約期間については明示していない。
しかしながら,違法派遣の場合における派遣労働者の雇用の安定を図り,みなし雇用制度を実効性あるものとするためには,直接雇用後の雇用禁止期間は,期間の定めのないものとすべきである。
5 以上のとおり,改正法案の内容は,派遣労働者の生存権,勤労の権利の実質的保障の見地に照らし,極めて不十分なものというべきであるから,国会において抜本的修正を行った上,速やかに改正手続をなすよう強く求めるものである。
2010(平成22)年5月12日
岡山弁護士会
会 長 河 村 英 紀