(2012.11.21)遠隔操作による脅迫メール事件等の取調べについての会長声明
遠隔操作による脅迫メール事件等の取調べについての会長声明
遠隔操作ウィルスなどを使って他人のパソコンからウェブサイトに犯罪予告の書き込みをしたり、脅迫メールを送りつけたりしたことが判明し、真犯人の存在が明らかとなった一連の事件について、捜査機関は、逮捕された4人の方に対し、いずれも誤認逮捕であったことを認め、謝罪するに至った。
今後、捜査機関に対しては、真犯人の特定に全力が注がれることを期待するところであるが、一方で、二度とこのような事件を起こさないために、今回4人もの誤認逮捕を招いた捜査機関の捜査手法、逮捕・勾留手続の適否、取調べの内容等について今後徹底した検証がなされなければならない。
そして、これらの事件のうち警視庁と神奈川県警がそれぞれ逮捕した2人については、虚偽の自白がなされ、自白調書が作成されていることは極めて重大な問題である。特に、神奈川県警の事件では、被疑者(少年)は逮捕当初は否認していたが、その後全く身に覚えのない犯罪であるにもかかわらず、ありもしない動機までが書かれた供述調書が作成されたとのことである。さらに、捜査官が被疑者の少年に対して「認めないと少年院送りになる」などと言ったとの報道もなされているところであり、これらの状況からすれば捜査機関による自白の強要や誘導等の違法または不適切な取調べがあったと考えざるを得ない。
このような虚偽の自白に至った経緯を正確に検証し再発を防止するためには、自白に至る取調べの過程をすべてチェックすることが最も効果的であるが、本件で取調べの録画は行われておらず十分な検証は期待できない。加えて、密室で行われる現在の取調べが虚偽自白を招いていることはこれまでの冤罪事件、そして今回の事件からもはや明らかである。取調べの事後的検証を行うとともに、違法・不当な取調べを防止するため、裁判員裁判対象事件等に限定することなく、すべての事件において、直ちに取調べの可視化(取調べの全過程の録画)が行われなければならない。
また、大阪府警の事件で逮捕・起訴された方は保釈請求が許可されたにもかわらず、検察官の準抗告の申立を受けた裁判所が保釈を不許可とする判断を行ったとのことである。否認を続ける限り、裁判所が身体拘束を是認し、その身体拘束によって虚偽の自白が誘発されるという「人質司法」の問題点が、この一連の事件において浮き彫りにされたというべきである。
なお、今回浮き彫りとなった「人質司法」及び「取調べの可視化」の問題は当会においても今月行われた国選弁護プレシンポで取り上げられ、12月に岡山で予定されている国選弁護シンポジウムの中でもさらに議論される予定であり、それら問題の解決は今回の事件以前からすでに重大な課題となっていたのである。
現在、法制審議会「新時代の刑事司法制度特別部会」において、取調べの全過程の録画の法制化が議論されているが、今回の事件により法制化の必要性は一層高まったといえよう。また、人質司法の排除についても今後の検討が急務である。
当会は、今回の事件を踏まえ、捜査の適正化、及び冤罪防止のため、取調べの可視化の法制化及び人質司法の排除を求めるとともに、捜査機関に対しては、本件の重大性を強く認識し、法制化前においても、直ちに取調べの全過程の録画を実施することを強く求めるものである。
2012年(平成24年)11月21日
岡山弁護士会
会 長 火 矢 悦 治