小野市福祉給付制度適正化条例の廃止を求める会長声明
小野市福祉給付制度適正化条例の廃止を求める会長声明
平成25年3月27日,兵庫県小野市において,小野市福祉給付制度適正化条例が制定された。
本条例では生活保護,児童扶養手当等の福祉制度による金銭給付受給者が,これらの金銭をパチンコ,競輪,競馬等に費消し,生活の維持安定向上義務に違反することを防止し,同受給者の生活支援に資することを目的とし,そのために受給者らの責務を定めるとともに,市民及び地域の構成員に対して,市への積極的な協力,情報提供の責務を課している。
しかし,本条例は,違憲,違法の疑いが強いものであるから小野市は同条例を即時廃止すべきである。
まず,福祉制度による金銭給付受給者が受給した金銭は,そもそも使途を限定されているものではない。にもかかわらず,本条例は福祉制度により現金給付を受けている受給者の私生活を,その周辺の市民及び地域の構成員が監視し,市に情報提供し,市の職員が生活指導をするという仕組みを規定している。
この市民及び地域の構成員による情報提供の仕組みは,誰が生活保護をはじめとする福祉制度の受給者であるのかという高度なプライバシーに属する情報(憲法13条)を,一般市民が知っていることが前提となっている。ともすれば,生活保護受給者は,税金から給付を受けている以上,プライバシーを暴かれても受忍すべき存在であるとの差別や偏見を助長させかねず,このような危惧感から要保護者であっても生活保護の受給を躊躇するという効果を生みかねない。プライバシーの権利と生活保護受給権に対する侵害であり,憲法13条,25条に違反するおそれがある。本来生活保護の対象となるべき生活困窮者が何らかの理由で保護を受けられていない漏給が問題となっている現状に鑑みると決して許されるものではない。
不正受給が許されないことは当然であるが,不正受給の防止は,行政の責任であるのに,これを市民に転嫁し,しかも,犯罪行為でさえ市民に法律上の通報義務はないのに受給者のプライバシーの領域まで一般市民に監視通報義務を負わせる条例の制定は,小野市が全市民を巻き込んだ相互監視社会化を助長し,福祉制度による金銭給付受給者に対して差別偏見を助長するものであるといわざるを得ない。
ところで,全市民の六割が本条例を支持しているとの報道もみられる。小野市に限ったことではないが「民主主義で得られた結論であるから正しい。」との論調で政策の実行や,条例の制定をする動きが往々にしてなされることがある。しかしながら,民主主義で得られた結論であるから正しいのではなく,その前提として既存の法体系との整合性,少数者の人権への十分な検討が必要である。このことを抜きにした,単に多数決による結論により誤った結果を招くことは過去の歴史を振り返ってみても明らかである。
当会は本条例の問題点を上記のとおり指摘した。小野市においては本条例を即時廃止すべきである。
2013(平成25)年6月12日
岡山弁護士会
会長 近 藤 幸 夫
会長 近 藤 幸 夫