(2024.12.11)能登半島地震に関し、総合法律支援法の改正等による法的支援の継続を求める会長声明
1 本年1月1日に発生した令和6年能登半島地震(以下「能登半島地震」という。)からはや1年が経とうとしている。
内閣府非常災害対策本部の発表によれば、令和6年11月26日時点での被害状況は、死者・行方不明者が462名(うち災害関連死が235名)、負傷者が1345名、半壊以上の住家被害が2万9523件となっており、平成23年に発生した東日本大震災以降最大の被害が発生している。
被災地では、徐々に復旧が進みつつあるが、被災地へのアクセスの困難さや自治体、関係事業者の人材不足もあり、公費解体の遅れ等の問題も生じており、生活再建の入口にすら到達できていない被災者も多数存在する。実際、環境省の発表によると、令和6年11月25日現在、公費解体の申請棟数は3万3120件に及ぶが、解体が完了したのは9804件であり、解体完了率はわずか30%にとどまっている。
2(1)政府は、この能登半島地震について、令和6年1月11日に「令和六年能登半島地震による災害についての総合法律支援法第三十条第一項第四号の規定による指定等に関する政令(令和6年政令第6号)」を制定し、総合法律支援法第30条第1項第4号に規定する非常災害に指定をし、日本司法支援センター(以下「法テラス」という。)における被災者法律相談援助制度の適用対象とした。この制度は、政令で非常災害と指定された災害について、発災の日から起算して「一年を超えない範囲内において」、被災地に住所、居所、営業所又は事務所(以下「住所等」という。)を有していた方に対し、資力を問わずに法テラスにおける無料相談を実施する制度であり、過去には、平成28年熊本地震、平成30年7月豪雨、令和元年東日本台風、令和2年7月豪雨にも適用されている。
能登半島地震が被災者法律相談援助制度の適用対象とされた結果、被災地では、法テラスの事務所等での相談を円滑に行うことが可能となっており、事務所等へのアクセスが困難な地域には移動相談車両(法テラス号)を派遣するなどの対応もとられている。被災者法律相談援助制度は、能登半島地震の被災者の法律相談ニーズに応えるうえで重要な役割を果たしている。
(2)ただ、上述のとおり、被災者法律相談援助制度は、発災後最長1年間という期間が定められており、能登半島地震についても令和6年12月31日までとされている。
その一方で、能登半島地震の被災地では、発災から1年が経とうとしている現時点においても、依然として多くの被災者が避難を余儀なくされ、公費解体も十分に進んでいないなど、生活再建の入り口にすら立っていない被災者も多数存在する。被災者支援制度の基礎となる罹災証明書についても、判定そのものやその基礎となる資料の情報公開等について問題が指摘されており、被災者からの相談も継続すると考えられる。また、災害関連死の認定数も増加し、東日本大震災後の災害としては最多となっており、災害関連死の申請に関する相談や対応も継続する可能性が高い。これらに加えて、各種の支援金の申請、相隣関係など地震に起因する紛争の解決、自然災害債務整理ガイドラインに基づく債務整理を含む債務の処理など、今後も多数の法律相談や紛争処理のニーズが生じることが容易に予想される。
さらに、令和6年9月には能登半島豪雨災害が発生し、能登半島地震の被災者が復興途上で再び被災するという事態も生じており、被災者に対する法的支援の必要性はこれまで以上に高まっている。
このような状況であるにもかかわらず、被災者法律相談援助制度が1年間で終了してしまうのであれば、被災者に対する法的支援としては極めて不十分であり、「被災者一人ひとりの被災状況や生活状況の課題等を個別の相談等により把握した上で、必要に応じ専門的な能力をもつ関係者と連携しながら、当該課題等の解消に向けて継続的に支援することにより、被災者の自立・生活再建が進むようにマネジメントする取組」である災害ケースマネジメントの実現にはほど遠いと言わざるを得ない。
(3)なお、これまでの大規模災害における相談支援状況を見ても、まず平成23年に発生した東日本大震災では、平成24年度の震災法律相談援助は全国で4万2981件、平成25年度は4万8418件であり、発災から2年が経過した時点でもその件数は極めて多い状況であった(平成25年度版法テラス白書)。
そして、岡山県内でも多数の被災者が出た平成30年7月豪雨災害においては、発災後1年間、被災者法律相談援助が実施されたが、平成30年8月以降、毎月の同援助件数は1000件を超え、同援助が終了する令和元年6月には1992件の相談が実施され、最多の件数となった(平成30年度版法テラス白書)。このデータからも、被災者の法律相談ニーズは発災から1年が経過した時点においてもなお高い状況であったことが明らかとなっている。なお、相談継続の必要性は、令和5年7月まで継続的に被災地である倉敷市真備町での法律相談を実施してきた当会においても強く実感しているところである。
また、同じく法テラスの被災者法律相談援助制度の適用対象となった平成28年熊本地震、令和元年東日本台風、令和2年7月豪雨のいずれの災害においても、発災から1年が経過してもなお被災者の相談ニーズが高い状況であったことが明らかとなっている(平成28年度版、令和2年度版法テラス白書)。
(4)以上のことからすれば、被災者からの相談に対応し、災害ケースマネジメントを実効性あるものとするためには、令和7年1月1日以降も法テラスにおける能登半島地震の被災者に対する資力を問わない無料法律相談を実施できるようにすべきであり、そのためには、現在1年以内とされている総合法律支援法第30条第1項第4号における政令による指定期間を柔軟に延長することが可能な法改正が必要である。
そして、この法改正は、能登半島地震のみならず、今後発生する可能性がある大規模な自然災害への対応を考えても、必要不可欠なものである。
3 さらに、東日本大震災の際には、総合法律支援法に基づく非常災害の指定の制度はまだ存在しなかったが、発災から約1年後に「東日本大震災の被災者に対する援助のための日本司法支援センターの業務の特例に関する法律」が制定された。この特例法による制度は、被災地に住所等があった者であれば、資力を問わず法テラスにおける法律相談援助、震災に起因する法的紛争に係る代理援助等を受けられること、裁判所の手続のほかに裁判外紛争解決手続(ADR)などが代理援助・書類作成援助の対象となること、事件の進行中は立替金の返済が猶予されることなどの特色があり、当初は3年間の時限立法であったが、最終的に令和3年3月末まで9年間に渡って期間が延長された。
能登半島地震についても、東日本大震災以降最大規模の被害が生じていることに加えて、災害からの復旧や生活再建が様々な事情から停滞していること、能登半島豪雨災害も発生したことなどからすれば、同地震に関しても東日本大震災と同様の特例法を制定し、法テラスによる支援を拡充すべきである。
4 以上より、当会は、国に対し、現在1年以内とされている総合法律支援法第30条第1項第4号における政令による指定期間を柔軟に延長することが可能な法改正を行い、令和7年1月1日以降も法テラスにおける能登半島地震の被災者に対する資力を問わない無料法律相談の実施を可能するよう求めるとともに、能登半島地震について東日本大震災における対応と同様に、資力にかかわらず被災地に住所等を有していた者が様々な法的支援を受けられる法テラス業務に関する特例法の制定を求める。
以上
2024年(令和6年)12月11日
岡山弁護士会
会長 井 上 雅 雄