(2024.07.12)最高裁判所大法廷判決を受けて、改めて旧優生保護法下における優生手術等の被害者の全面的救済を求める会長声明

1 2024年(令和6年)7月3日、最高裁判所大法廷(裁判長・戸倉三郎長官)は、裁判官全員一致で、旧優生保護法に基づき不妊手術を強要された各地の被害者らが提起した国家賠償請求訴訟5件の上告審において、被害者らが勝訴していた4件については、国の上告を棄却して国に損害賠償金の支払を命じる判決を、被害者の請求を棄却した仙台高等裁判所判決については、同判決を破棄した上で損害賠償金の額について更に審理するよう同裁判所に差し戻す判決をそれぞれ言い渡した(以下「本判決」という。)。

2 本判決は、優生思想に基づき、特定の疾病や障害(以下「特定の障害等」という。)を有する者や配偶者が特定の障害等を有する者、本人若しくは配偶者の4親等以内の血族関係にある者が特定の障害等を有する者に強制不妊手術を認める旧優生保護法上の規定は、その立法目的が「特定の障害等を有する者が不良であり、そのような者の出生を防止する必要があるとする点において、立法当時の社会状況をいかに勘案したとしても、正当とはいえない」と指摘し、「そのような立法目的の下で特定の個人に対して生殖能力の喪失という重大な犠牲を求める点において、個人の尊厳と人格の尊重の精神に著しく反する」などとして、憲法13条及び14条1項に違反すると断じた。その上で同規定に係る国会議員の立法行為は、国家賠償法1条1項の適用上、違法の評価を受けると判断した。
 そして、国が憲法13条及び14条1項に反する規定に基づいて1948年(昭和23年)から1996年(平成8年)までの長期間にわたり特定の障害等を有する者等を差別して重大な犠牲を求める施策を身体拘束や欺罔手段を用いることも許容するなどして積極的に実施し、少なくとも約2万5000人もの多数の被害者が不妊手術を受け生殖能力を喪失するという重大な被害を受けたことなどからすれば、国の責任は極めて重大であるから、被害者の請求権が改正前民法724条後段の除斥期間の経過により消滅したとすることは著しく正義・公平の理念に反し、到底容認することができず、国が除斥期間の主張をすることは、信義則に反し、権利の濫用として許されないと判断したものである。

3 本判決は、従前の最高裁判例を変更し、不妊手術を強要された被害者の損害について国に除斥期間経過の主張を許さないとしたものであるから、未だ提訴していない多数の被害者の救済に繋がる内容であって、人権保障の砦としての司法の役割を果たしたものとして高く評価できるものである。国は、本判決を重く受け止め、旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律(以下「一時金支給法」という。)に基づく一時金の請求・認定も低調に止まっている現状(2024年(令和6年)6月2日までの請求件数は1331件、同年5月末までの認定件数は1110件)も踏まえ、旧優生保護法の違憲性を明記し、適正な額の補償金制度を定めるなどの抜本的改正を行った上で速やかに被害者全員の全面的な被害救済を図るべきである。

4 そこで、当会は、国に対し、被害者全員に対する適切な賠償がなされるべく一時金支給法を見直して適切な立法措置を行うこと及び偏見差別の解消に向けた措置等を積極的に行うことによって、被害者全員に対して真の被害回復が図られるよう求める。
 本判決は、障害を有する者及びその家族らに対する偏見や差別の解消を促進するものとして評価できるものであるが、その一方で残念ながら現在も社会には様々な偏見や差別が残っているといわざるを得ない。そのような偏見や差別のない社会を作っていくのは、国はもちろんのこと、我々社会全体の責任であることを自覚しなくてはならない。当会としても、誰もが個人として等しく尊重され、差別されることがない社会の実現に向けて、引き続き活動を続けていく決意である。

以上

 
2024年(令和6年)7月12日

岡山弁護士会     
会長 井 上 雅 雄

 


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