(2024.02.19)緊急事態時に国会議員の任期延長を認める憲法改正に反対する会長声明

1 はじめに
 衆議院憲法審査会では、昨年の通常国会や臨時国会において、大規模災害や戦争等の緊急事態においても国会の権能を維持するためとして、国会議員の任期延長を認める憲法改正が必要だとする論議がなされた。
 一部会派からは具体的な条文案も示されており、概ね、外部からの武力攻撃や大規模災害などの緊急事態が発生し、広い地域で選挙の実施が70日を超えて困難なことが明らかな場合には、国会議員の任期を6か月延長できる(再延長も可)としている。
 こうした情勢のもと、2024年には衆参憲法審査会における議論が進み、憲法改正の発議が国会でなされる可能性もある。

2 国民の選挙権を制限し、国家権力による濫用の危険性があること
 そもそも憲法は、主権が国民に存することを宣言し(前文、1条)、公務員を選定し及びこれを罷免することは国民固有の権利であるとし(15条1項)、国会の両議院は全国民を代表する選挙された議員でこれを組織すると定め(43条1項)、両議院の議員はそれぞれ任期が定められている(45条、46条)。
 国民主権のもとで、国会議員を選挙により選定する権利は、最大限保障されるべきである。議員任期が延長されれば、国民が、本来であれば延長前に行使できた選挙権を、延長された期間中には行使できなくなり、選挙権行使の機会が制限され、国会議員に対して民主的統制が及ばなくなる。
 大規模災害時の選挙の実施を可能とするため、不在者投票や郵便投票制度の要件緩和といった公職選挙法改正など(日本弁護士連合会2017年12月22日付「大規模災害に備えるために公職選挙法の改正を求める意見書」参照)、ほかに手段があるにもかかわらず、国会議員の任期を延長する憲法改正は、選挙権を制限し、民主的正当性を損なうものであり、容認できない。
 そして、こうした議員任期延長を認めてしまっては、国会における多数派が内閣を組織する議院内閣制のもと、国家権力による濫用の危険性がある。

3 参議院の緊急集会で対応可能であること
 国会は二院制であり、参議院は3年ごとに半数は改選されるため(憲法46条)、衆議院の解散時や衆参両議院の任期満了時においても、国会議員が全員不在となることはない。
 そして、憲法54条2項は、衆議院が解散中に、緊急の必要があるときは、内閣が参議院の緊急集会を求めることができると規定し、緊急時、暫定的に参議院のみで国会機能を維持する枠組みが定められている。この緊急集会は、衆議院解散時のみならず、衆議院議員の任期満了時にも開催できるという解釈が有力になっている。さらに、同条3項は、この参議院の緊急集会で採られた措置は臨時のもので、次の国会開会の後10日以内に衆議院の同意がない場合にはその効力を失うと定め、緊急時の措置に対する衆議院の関与の機会を保障している。
 このように現行憲法においても、参議院の緊急集会によって国会権能を維持して、行政権の自由判断の余地を少なくする枠組みが設けられており、国会議員の任期延長を可能とする憲法改正の必要性は認められない。

4 結論
 したがって、緊急時に国会議員の任期の延長を認める憲法改正は、国民の選挙権を制限して国家権力による濫用の危険性があるし、参議院の緊急集会で対応可能であって必要性を欠くのであるから、到底容認できない。
 当会は、こうした憲法改正に反対する。

以上

 
2024年(令和6年)2月19日

岡山弁護士会     
会長 竹 内 俊 一

 


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