衆議院の安保法案強行採決に反対する会長声明
本日、衆議院本会議において、自民公明など与党の賛成多数をもって安保法案は強行採決された。もとよりこの法案は、憲法9条違反であるにもかかわらず、安倍内閣が砂川最高裁判決を根拠にした独自の合憲解釈のもと、強行採決に踏み切ったものである。
そもそも、安倍内閣は、昨年7月、歴代内閣が継承してきた憲法9条の解釈を突如変更し、憲法9条のもとでも、集団的自衛権行使を可能とする閣議決定をなし、今国会にその集団的自衛権を前提とする安保法案を提出した。この閣議決定及び安保法案は、憲法9条の恒久平和主義に反するだけでなく、憲法改正手続を経ることなく一内閣が勝手に憲法の解釈を行ったという意味で立憲主義にも反するので、全ての弁護士会はこの閣議決定の撤回や安保法案の廃案を求めてきた。
しかも、安保法案の衆議院の審議中に、憲法審査会に出席した与党推薦者を含む3名の憲法学者全員が、提案された法案は憲法に違反すると公述したにもかかわらず、与党自民党の幹部は、「憲法学者が平和や安全を守ってきたわけではない」とか、「憲法違反と考えていない憲法学者もいる」とか、「違憲と考えている憲法学者の数が問題ではない」などと、全く不合理な反論を展開し、また、閣議決定や法案の合憲性については、集団的自衛権が争点になっていなかった砂川最高裁判決を持ち出すなど、法律家集団として到底容認できない反論を重ねてきた。
このような安倍内閣の不誠実な説明に対して、80パーセントを超える国民が十分な説明を受けていないと答えている。(7月6日毎日新聞)また、いまだ審理が尽くされていない論点も多数残されている。このように多くの国民が納得していない法案を、予定していた審議時間の経過という理由だけで強行採決することは、数の横暴以外の何物でもなく、国民主権にも反する極めて由々しき事態であり、到底認めることができない。
そもそも憲法に違反する法案について立法理由の説明がまともにできるはずはなく、審理が進むにつれて、益々、安保法案の違憲性が明らかになっていったことから、安倍内閣は、これ以上時間をかけて審理されたら、法案の違憲性が白日のもとになるため、早期に、数の力で押し通す以外に方法がないと判断したとしか考えられない。
国民の世論に耳を貸さず、違憲を主張する圧倒的多数の憲法学者の論にも耳を貸さず、自らの偏った考えだけで、国会運営を行い強行採決することは、憲政史上最大の汚点となることは明らかである。
当会は、法の支配の下、人権擁護と社会正義の実現を使命とする立場から、平和主義、立憲主義、国民主権に反して違憲立法を行う安倍内閣に対して、今一度、集団的自衛権行使を可能とする閣議決定の撤回を求め、参議院に対しては、安保法案の廃案を求めるとともに、いわゆる60日ルールを使って違憲法案を成立させることがないように、強く求める次第である。
2015年(平成27年)7月16日