(2023.04.20)再提出された出入国管理及び難民認定法改正案に反対する会長声明
2023(令和5)年3月7日、出入国管理及び難民認定法及び日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法の一部を改正する法律案(以下、「再提出法案」という。)について、閣議決定がなされ、国会に提出された。
この再提出法案は、2021(令和3)年の通常国会で廃案になった出入国管理及び難民認定法(以下、「入管法」という。)の改正案(以下「旧法案」という。)について、その骨子を変えないままに再提出されたものである。当会は、旧法案の提出に先立つ「収容・送還に関する専門部会」の提言に対して2021(令和3)年2月12日に反対意見を述べ、旧法案に対しては同年4月23日に反対意見を述べたところであるが、今回の再提出法案についても、以下の理由から強く反対する。
1 再提出法案においては、旧法案と同様、難民申請中の送還停止を原則2回までとし、3回目以降の難民申請については送還を可能とする旨の送還停止効の例外が定められている。
そもそも、他の先進国では比較的高い割合で難民認定がなされているにもかかわらず、日本における難民認定率は僅か0.7%にとどまっている。そのため、難民申請者の中には、生命に関わる迫害を受けるおそれを理由として本国から日本へ逃げてきた難民であるにもかかわらず、一度の申請では難民として認定されず、複数回の申請の末にようやく認定される者も相当数存在するところである。当該現状において3回目以降の難民申請者に対して強制的な送還を可能とすることは、難民申請者の生命身体に差し迫った危険を及ぼすことが強く懸念されるものである。現行の難民認定手続の適正化に向けた法整備や具体的措置をまず先行させるべきであり、そのような手当てもないまま送還停止効を一部解除する再提出法案は、迫害を受けるおそれのある地域に送還してはならないとする「ノン・ルフールマン原則」(難民条約第33条1項、拷問等禁止条約第3条第1項など)に反するおそれがある。
なお、再提出法案には、送還停止の効力の一部解除について3回目以降の難民申請でも難民等と認定すべき「相当の理由がある資料」を提出した場合には送還停止の効力が維持されるとの規定が設けられてはいるが、当該規定に該当するか否かの判断を行うために別途第三者機関等が予定されているものではないため、かかる規定によって前記の問題が払拭されるとは言えない。
2 再提出法案においては、旧法案と同様、退去強制令書が発付された上で日本から退去しない被退去強制者に対して、一定の期日までに日本から退去するよう命令する制度を創設し、その命令違反に対して刑事罰の定めがある。
同制度は、司法審査を経ずに主任審査官が発付する退去強制令書を理由として刑罰を科すものである。司法判断が示される前に罰則が適用されることになれば、司法による救済を受ける機会を奪うことになりかねず、また、罰則の適用対象が過度に広がるおそれがある。
さらに、退去強制令書の発付を受けた者に対して刑事罰が科されることとなれば、在留のための活動を支援する家族や支援団体、弁護士等の支援者がその共犯とされる可能性も出てくるため、これら支援活動を萎縮させる結果となる。
3 旧法案においては、退去強制令書により収容中の外国人等に対して、逃亡のおそれの程度等を考慮し、監理人による監理を付して収容を放免する監理措置制度を新設しようとしていたが、再提出法案においても当該制度の新設は維持されている。
政府は、監理人の負担軽減のため、定期的な届出義務を改め、求められたときのみ報告すれば足りることとしたと述べるが、頻繁に報告を求められた場合、監理人の負担は変わらないどころか加重されかねない。加えて、監理人の監理措置決定の裁量的取消事項にかかる届出義務違反及び先述の報告義務違反に対する罰則は維持されている。本来、対象者を支援しようとする者に監理人としてかかる届出・報告義務を課すことは、両者の信頼関係を損なわせ、特に代理人として対象者の利益を守り、守秘義務を負う弁護士の立場とは相容れず、対象者の人道的支援や権利擁護活動に支障をきたすおそれがある。
収容にあたって司法審査を行う必要性や収容期間の上限を設ける必要性については、国連自由権規約委員会の総括所見においても勧告を受けているところであり、全件収容主義を改め、収容にあたって司法審査を導入し、収容期間の上限を設けるよう改めるべきである。
4 また、再提出法案において、仮放免等された者が逃亡等した場合の刑事罰を設けるとされている。
現行法においても、仮放免者は当局への定期的な出頭を求められており、逃亡した場合には仮放免許可が取り消され、保証金が没取されている。しかるに、これに加えてさらに刑事罰を規定することは、仮放免者に対する出入国在留管理庁の管理を強めるものであり、刑事法上の保釈において、刑事被告人が逃亡しても刑罰がないこととのバランスを欠いている。また、退去強制令書の発付を受けた者を支援する場合と同様に、仮放免された者を支援する者(弁護士も含まれうる)も、本罰則の共犯ともなりかねない。
5 なお、再提出法案は、紛争地域から逃れてきた人々などを保護するための「補完的保護対象者」制度を新設するとしているが、国際的基準によれば、ウクライナから避難してきた人々などは、端的に難民条約上の「難民」として保護することが可能とされており、まずは、国際的基準に即した難民認定を行うことが先決である。
以上のとおり、再提出法案は、従前から指摘されている入管法の問題点について根本的な改善をせず、却って日本への在留を希望する外国人に対する重大な人権侵害のおそれが増大する内容となっている。当会としては、このような再提出法案に、強く反対する。
2023年(令和5年)4月20日
岡山弁護士会
会長 竹 内 俊 一