共謀罪規定の新設に反対する会長声明
報道によれば、政府は、過去3度廃案となった共謀罪の規定(以下「共謀罪規定」という)を、改めて国会へ上程しようとしている。
しかし、当会は、以下のとおり、共謀罪規定は極めて問題の多く、かつ危険な規定であるので、その新設に断固反対する。
そもそも、共謀罪とは、団体の活動として犯罪の遂行を共謀した者を処罰するための刑罰法規である。
そして、共謀した者の内に、犯罪の実行の着手やその準備行為を行った者を含まなくとも共謀罪が成立するという点において、従来の共謀共同正犯とは全く異なっている。これは、思想ではなく行為を処罰するという刑事法体系の基本原則に根本的に矛盾するものである。
また、個人がどのような思想や信条を持ち、また、それをどのように表現するかを処罰の対象とすることは、憲法が保障する思想信条の自由、表現の自由、集会・結社の自由を侵害する危険が極めて強い。共謀罪規定はその対象を暴力団等の反社会的組織に限定していないため、例えば、一般市民によって構成される市民団体や労働組合が政府の政策に反対し、首相官邸前での座り込みなどの行動について話し合っただけで、身体を拘束され、処罰されてしまう可能性がある(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律)。少なくとも、共謀罪規定が市民団体や労働組合等の活動に深刻な萎縮的効果をもたらすことは明らかである。現在検討されている共謀罪規定は、一定の法定刑(長期4年)以上の犯罪全てに適用され、600以上もの犯罪について一挙に共謀罪を新設する内容であることからすれば、共謀罪規定が国民に与えるであろう萎縮的効果は甚大である。
さらに、仮に共謀罪規定が導入された場合、捜査機関は、謀議を立証するため、取調べによる自白獲得の外、国民の私的な会話・通話・通信などを秘密裏に聴取・閲覧するなどの捜査活動に注力することが予想される。
そうであれば、通信傍受法の対象範囲拡大を前提に、通信傍受が広範かつ包括的になされる危険性も認められ、また、共同謀議を否認する被疑者に対しては捜査機関によって自白調書の獲得を目指して苛烈な取調べがなされる危険性は増大し、国民の基本的人権と深刻な対立を引き起こすおそれが増大する。
なお、先般のパリ同時多発テロ事件を受けて、テロ撲滅のために共謀罪規定が必要であるなどの意見もあるが、これは、無理やりなこじつけである。そもそも、政府は国際組織犯罪防止条約を批准することを目的として共謀罪規定の創設を提案しているところ、同条約の取り締まりの対象は、経済目的の組織的犯罪集団であって、その内容はテロ対策とはまったく関係ない。わが国では、組織的犯罪集団に関連した主要犯罪は既に未遂以前の段階から処罰できる体制がほぼ整っており、共謀罪規定の必要性はない。
以上のとおり、共謀罪規定は、刑事法体系の基本原則に矛盾し、基本的人権の保障と深刻な対立を引き起こすおそれが高いことから、当会は、その新設に断固反対する。
2016年(平成28年)1月13日