(2022.06.23)「大崎事件」再審請求棄却決定に抗議する会長声明

 鹿児島地方裁判所(中田幹人裁判長)は、2022年6月22日、いわゆる大崎事件第4次再審請求事件につき、再審請求を棄却する決定をした(以下「本決定」という)。
 大崎事件は、1979年10月12日、鹿児島県曾於(そお)郡大崎町の農道脇の溝に自転車ごと転落し、前後不覚で道路上に横臥していた「被害者」が、午後9時頃近隣住民2名によって「被害者」の自宅に運ばれてきたところ、原口アヤ子氏(以下「アヤ子氏」という。)が、アヤ子氏の元夫、義弟を含めた計3名で共謀して同日午後11時頃「被害者」を殺害し、翌午前4時頃、その遺体を義弟の息子も加えた計4名で遺棄したとされる事件である。アヤ子氏は、逮捕時から一貫して無罪を主張してきたにもかかわらず、確定審においては「共犯者」とされた3名の親族の自白等を主な証拠として、アヤ子氏に懲役10年の有罪判決が下された。
 アヤ子氏は満期服役後、鹿児島地方裁判所に対して、これまで3度にわたり再審請求を申し立てた。第1次再審請求審では再審開始決定が認められた。しかし、同即時抗告審が再審決定を取り消し、最高裁判所もこの判断を維持した。また、第3次再審請求審では検察官の特別抗告を受けた最高裁判所第一小法廷(小池裕裁判長)が、2019年6月25日、「被害者」が帰宅した時点で死亡または瀕死の可能性があり、自宅に運ばれた際の「被害者」の様子に関する近隣住民2名の供述は信用できない、それゆえ、「共犯者」3名の各供述の信用性に重大な疑義が生じるとした即時抗告審の決定は、法医学鑑定の問題点やそれに起因する証明力の限界を十分に考慮していないから、「取り消さなければ著しく正義に反する」として、あえて地方裁判所、高等裁判所の再審開始決定を取り消し、自判して再審請求を棄却するという決定を下したのである。
 第4次再審請求審では、「被害者」が自宅に運ばれた時点で既に死亡しており、そもそもアヤ子氏らが「被害者」を殺害することはあり得ないこと、つまり「殺人事件」は存在しないことを明らかにするため、新証拠として、死亡時期について救命救急医の鑑定書、「被害者」をその自宅に運んだ近隣住民2名の供述鑑定書等が提出された。  
 これを受けた鹿児島地方裁判所は、5名の鑑定人の証人尋問を行い、現地での進行協議期日を実施する等の訴訟指揮を行ったにもかかわらず、これら新証拠による死亡時期の検討を十分に行わず、最高裁判所の決定に追従し、再審請求を棄却したのである。前述のとおり、既に何度も下級裁判所において再審開始の判断がなされており、これに新証拠を加えれば、検察官立証に合理的な疑いが差し挟まれることは明らかである。
 本決定は、新旧全証拠の総合評価と「疑わしきは被告人の利益に」という鉄則の適用を求めた白鳥・財田川決定に明らかに違反しており、無辜の救済という再審制度の趣旨を没却する不当なものであり、到底是認できない。
 本件においては、既に最初の再審開始決定からでも20年以上が経過しているにもかかわらず、再審公判が開始されない状態のままアヤ子氏は95歳の高齢に達するという深刻な状況にある。再審開始の判断が繰り返されても本人の生命の続く間に救済が危ぶまれるような再審制度の在り方は、およそ実効的なえん罪救済制度として機能しているものとはいえない。
 当会は、適正な刑事手続の保障と実効的なえん罪救済制度の実現を求める立場から、今般の不当な本決定に対して、強く抗議の意思を表明する。

以上

 

2022年(令和4年)6月23日

岡山弁護士会     
会長 近 藤   剛

 
 


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