(2022.06.09)低賃金労働者の生活を支え地域経済を活性化させるために、最低賃金額の大幅引上げと全国一律最低賃金制度の実施を求める会長声明

1 中央最低賃金審議会は、本年7月頃、厚生労働大臣に対し、本年度の地域別最低賃金額改定の目安についての答申を行う予定である。例年、地方最低賃金審議会は、この目安を参考として、地域別最低賃金額を各労働局長へ答申し、その答申を受けて各労働局長が具体的金額を決定する。
 昨年、岡山労働局長は、岡山地方最低賃金審議会の答申を受け、地域別最低賃金額を時給862円とする決定を行っている。
 しかしながら、以下に述べるとおり、時給862円という水準は、未だ余りに低過ぎるものと言わざるを得ない。

2 最低賃金制度の目的は、賃金の低廉な労働者について、賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図り、もって、労働者の生活の安定、労働力の質的向上等に資するとともに、国民経済の健全な発展に寄与することにある(最低賃金法(以下「法」という。)第1条)。
 しかし、時給862円という水準では、フルタイム(1日8時間)で1か月22日間働いても、月収は15万1712円(年収は182万0544円)に留まる。特に、昨今ではロシアのウクライナ侵攻の影響もあり、食料品や光熱費など生活関連品の価格が急上昇している。現時点の我が国の社会状況に鑑みた場合、上記金額をもってしては、各種の給付の存在を考慮してもなお、労働者が健康で文化的な生活を営むことは極めて困難である。ましてや、上記金額では、子どもを生み育てていくビジョンが見えないため、少子化の流れを変えることはできず、我が国の経済は衰退の途を辿ることになりかねない。
 したがって、上記金額では、法の目的を達成するに足りる水準に達しているとは言えず、最低賃金を大幅に引き上げることが急務である。

3 フランスでは、2021年1月に10.25ユーロ、同年10月には10.48ユーロに引き上げられた。また、ドイツでは、2021年7月に9.60ユーロ、2022年1月には9.82ユーロに引き上げられ、同年7月から10.45ユーロへの引上げが既に決定しており、さらに、同年10月から12ユーロに引き上げることについて国会で審議中である。加えて、イギリスでも、2021年4月から23歳以上の労働者の最低賃金が8.91ポンド、2022年4月には9.5ポンドに引き上げられた。このように、多くの国で、コロナ禍で経済が停滞する状況下においても、最低賃金の大幅引上げが実現しており、わが国でも2022年において大幅な引上げが必要である。

4 最低賃金の地域間格差は依然として大きく、2021年の最低賃金は、最も高い東京都では1041円であるのに対し、最も低い高知県と沖縄県は時給820円であり、221円もの賃金格差が発生している。
 岡山県でも、隣接する広島県の最低賃金(899円)とは37円、同じく兵庫県の最低賃金(928円)とは66円もの格差が生じている。1日8時間、1か月22日間働くとすると、1か月分の賃金格差は、広島県との間で6512円、兵庫県との間で1万1616円にもなる。しかも、このような賃金格差は是正さるどころか、むしろ年々拡大している。2008年の最低賃金は、岡山県が669円であったところ、広島県は683円(14円差)、兵庫県は712円(43円差)であった。
 最低賃金の高低と人口の転入出には強い相関関係があり、このような事態を放置すれば、今後、さらに賃金格差が拡大し、岡山県外に労働力が流出する事態につながりかねない。都市部への労働力の集中を緩和し、地域に労働力を確保することは、地域経済の活性化の上でも有益であるから、政府においても、早急に、最低賃金の地域間格差の是正、全国一律最低賃金制度を実現すべきである。

5 一方、我が国の経済を支えている中小企業が最低賃金を引き上げても円滑に企業運営を行えるよう、充分な支援策を講じることも必要である。現在、国は「業務改善助成金」制度により、最低賃金の引上げにより影響を受ける中小企業に対する支援を実施しているが、利用件数はごく少数にとどまっている。最低賃金を引き上げても円滑な企業運営ができるように充分な支援策を講じるべきであり、具体的には、社会保険料の事業主負担部分の免除・軽減することによる支援策が有効である。

6 政府は、2010年6月18日に閣議決定された「新成長戦略」において、2020年までに全国加重平均1000円にするという目標を明記していた。この時期的目標は達成できなかったが、2022年1月17日、岸田首相は、衆議院本会議及び参議院本会議で、第208回国会における施政方針演説を行い、「できる限り早期に、全国加重平均1000円以上となるよう、最低賃金の見直しにも取り組んでいきます。」と明言しており、政府目標を達成するために、最低賃金の大幅な引上げが必要不可欠である状況に変わりはない。

7 当会は、弁護士法1条が定める弁護士の使命を果たすため、社会的弱者である低賃金労働者の基本的人権の擁護はなお不十分な現状にかんがみて、岡山地方最低賃金審議会に対し、労働者の健康で文化的な生活を確保し、地域経済の健全な発展を促すためにも、少なくとも最低賃金を全国加重平均(2021年度で930円)の水準に引き上げるべく、本年度の岡山県における地域別最低賃金額について68円以上の引上げを答申することを求める。さらに、同審議会における審議の公正及び透明性を確保するため、同審議会の意見に関する異議申出についての審議を含め、審議の全面公開を求める。
 また、岡山労働局長に対して、1時間あたりの地域別最低賃金額を本年度より68円以上引上げ930円以上に決定することを求める。

以上

 

2022年(令和4年)6月9日

岡山弁護士会     
会長 近 藤   剛

 

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