(2022.03.24)東京高等裁判所判決を受けて、国による上告断念と改めて旧優生保護法下における優生手術等の被害者の全面的救済を求める会長声明

1 2022年(令和4年)3月11日、東京高等裁判所は、旧優生保護法に基づき強制不妊手術を強要された被害者が提起した国家賠償請求訴訟の控訴審において、請求を棄却した一審判決を変更し、被害者の賠償請求を認める判決を言い渡した(以下、「本判決」という。)。同様の被害を訴える被害者らに対し、国による賠償を認めたのは、本年2月22日の大阪高等裁判所判決(以下、「大阪高裁判決」という。)に続き2例目である。

2 本判決は、優生思想に基づき特定の疾病や障害を有する者に強制不妊手術を認める旧優生保護法上のいわゆる優生条項は、その立法目的が差別的思想にもとづくものであって正当性を欠く上、目的達成の手段も極めて非人道的なものであり、憲法13条及び14条1項に違反すると断じ、同法を所管していた厚生大臣は違憲・違法な優生手術を実施しないよう都道府県知事を指導すべき注意義務を負っていたにもかかわらず、むしろ積極的に実施させていたものであり、国はこのような厚生大臣の公権力の行使たる職務行為につき、国賠法1条1項に基づく国家賠償責任を負うと判断した。
 そして、国の施策に基づき被害者に対する強度の人権侵害を行った事案であること、国が優生手術を積極的に推進したことにより優生手術の対象者に対する偏見・差別が社会に浸透したと評価でき、身体拘束や欺罔手段を用いることも許容して被害者が旧優生保護法に基づく手術であることを認識しがたい構造的な仕組みを構築した上、平成8年まで法改正せず、法改正後も被害救済のための措置をとらなかったこと等の事情を踏まえ、正義・公平の理念から、優生手術の被害者が自己の受けた被害が国による不法行為であることを客観的に認識し得た時から相当期間が経過するまでは、民法724条後段の除斥期間の効果は生じないと判断した。
 その上で、旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律(以下、「一時金支給法」という。)が制定された平成31年4月24日(同日施行)になってようやく社会全体として優生手術が違憲であり、国による不法行為を構成するものであると明確に認識することが可能となったとして、同法の施行日より5年間が経過するまでは除斥期間の効果は生じないとした。

3 本判決は、強制不妊手術の被害者救済に道を開いた大阪高裁判決に続くものであるが、両高裁判決においては、一時金支給法の定めた額である320万円を大幅に上回る賠償額が認められている。
 また、本判決は、大阪高裁判決よりも更に多くの被害者に救済が認められる内容となっており、全面的な被害者救済に繋がる画期的な判決であると高く評価できるものである。国は、既に大阪高裁判決に対して上告受理申立てをしているが、本判決でもその施策に対する責任が断罪されていることを重く受け止め、早期に被害者全員の全面的な救済を図るべきである。

4 そこで、当会は、国に対し、本判決に対する上告を断念し、大阪高裁判決に対する上告受理申立てを取り下げるよう求めるとともに、一時金支給法を見直して被害者全員に対する適切な賠償がなされ、加えて偏見差別の解消に向けた措置等を行うことによって真の被害回復が図られるよう求めるものである。
 報道によれば、本判決の言い渡し後に裁判長から、差別のない社会を作っていくのは、国はもちろん、社会全体の責任だと考える旨の所感が述べられたとのことであるが、当会としても、誰もが人としてひとしく尊重され、差別されることがない社会の実現のために責任を負っていることを改めて自覚し、基本的人権の擁護,社会正義の実現に向けて活動を継続する決意である。

以上

 

2022年(令和4年)3月24日

岡山弁護士会     
会長 則 武   透

 

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