(2021.11.11)名古屋出入国在留管理局における死亡事件について真相究明及び抜本的な再発防止策を求める会長声明
本年3月6日に、名古屋出入国在留管理局収容場に収容されていたスリランカ国籍のウィシュマ・サンダマリさん(当時33歳)(以下「ウィシュマさん」という。)が死亡する事件が発生した。
これに対し、出入国在留管理庁は、本年8月10日に、「令和3年3月6日の名古屋出入国在留管理局被収容者死亡事案に関する調査報告書」(以下「調査報告書」という。)を発表した。
入管収容施設内ではこれまでも繰り返し死亡事件が発生してきており、出入国在留管理庁には、被収容者の生命と健康を守るというその基本的な責務に重大な疑義が生じている。それにもかかわらず、このような死亡事故が繰り返されたのは、被収容者が死亡に至った原因を徹底して究明し、再発防止のための万全の体制を構築できていなかったためである。
今回の調査報告書も、外部有識者が関与したとはいえ出入国在留管理庁による内部調査の結果にすぎず、遺族が求めた文書開示についても行政文書約1万5000枚のほとんどが黒塗り状態で開示されるとともに、収容場内での状況を撮影したビデオ映像についても、未だ一部のみの開示にとどまっており、ウィシュマさんの死因を含め、真相が究明され、再発防止策が構築できたと評価できるものではない。
また、調査報告書の記載内容だけを見ても、名古屋出入国在留管理局のウィシュマさんへの対応は適切なものであったということはできない。職員らには、ウィシュマさんの体調不良は、仮放免許可に向けたアピールとして、実際よりも誇張して主張しているのではないかとの認識を持っている者がおり、ウィシュマさんが体調不良を訴えて嘔吐するなどし、看守勤務者に対し、「私死ぬ。」「病院持って行って。お願い。」「私、病院点滴お願い。」「救急車呼んで」などと体調不良や外部医療機関での診療を訴えたにもかかわらず、十分な医療的対応がなされなかった結果に繋がっている。さらに、医師が、「仮釈放されるまで治らないのではないか。」と発言し、「患者が仮釈放を望んで、心身の不調を呈しているなら、仮釈放してあげれば、良くなることが期待できる。」などと診療情報提供書に記載したにもかかわらず、これらの情報の共有が図られず、ウィシュマさんに対して、特段の措置が取られることもなかった。ウィシュマさんが体調不良のため、カフェオレを飲む際に、上手く嚥下できずに鼻から噴出してしまったのを見て、「鼻から牛乳や」などとウィシュマさんを馬鹿にした発言をした職員もいた。名古屋出入国在留管理局は、被収容者の自由を奪い、被収容者を施設内に拘束する施設である以上、被収容者の命を預かっているとの自覚のもと、適切な処遇を行うべきである。にもかかわらず、職員の上記のような対応は、多くの被収容者の命を預かるものとして、言語道断である。
調査報告書では、ウィシュマさんの死亡事件を踏まえた改善策として、全職員の意識改革、情報の的確な把握・共有、医療体制の強化及び仮放免判断の適正化などが記載されている。
しかし、政府はこれまでも、死亡事故について、内容調査を行い、同様の再発防止策を示しているが、その後も、死亡事故は繰り返し発生している。そのため、内部調査による改善策によって抜本的な再発防止が図れるとは考えられない。
まずはウィシュマさんに係る全ての資料を開示し、出入国在留管理庁から独立した委員のみをもって構成される第三者委員会等による徹底的な調査・検証を行うべきであり、その調査・検証結果を踏まえた上で抜本的な再発防止策を構築すべきである。
そして、当会の本年2月12日及び4月23日付会長声明でも求めたとおり、そもそも入管収容施設での外国人の収容には、司法審査が及ばず、行政による恣意的な運用の危険性が高いという根本的な問題点がある。
そのため、国は、出入国管理及び難民認定法を抜本的に見直し、収容には司法審査を必要とし、収容を必要最低限度に限る等の出入国管理及び難民認定法の改正を行うべきである。
2021年(令和3年)11月11日
岡山弁護士会
会長 則 武 透