(2021.09.09)岡山県家庭教育応援条例(仮称)素案に反対する会長声明

1 岡山県議会において、「岡山県家庭教育応援条例(仮称)」を制定する動きがあり、条例の素案(以下、「本条例素案」という。)が公表され、パブリックコメントが実施された。
 本条例素案では、まず、保護者に関し、第1条の目的で「保護者が親として学び、成長していくこと」という文言がある。また、第6条1項では、「自らが親として成長していくよう努めるものとする。」と努力義務を定めている。そして、第11条で「親としての学び」を岡山県が支援するとしている。
 次に、子どもに関して、第1条の目的で「子どもが将来親になるために学ぶことを促す」という文言がある。そして、第12条で「親になるための学び」を岡山県が支援するとしている。

2 しかし、公権力が自ら、「親としての学び」と称して、条例をもって「家庭教育の内容」や「親として成長するために必要なこと」の学習支援の方法の開発や普及を図ることや、学校、地域、事業者を巻き込む形で、「親としての学び」の機会の提供を推し進めて行くことは、尊重されるべき私的領域への公権力による過度な干渉というべきである。
 虐待、普通教育を受けさせる義務(憲法26条2項)への違背などが許容されないことは当然として、親が我が子にどのような内容の家庭教育をいかなる方法で行うかについては、本来親に相当広い裁量があり、それは親子それぞれの自己実現や人格的利益といった観点から最大限尊重されるべきことである。なぜなら、家庭での教育方針の策定及び実践は、まさにそれぞれの家庭や親の価値観そのものを反映するものだからである。
 にもかかわらず、公権力が家庭の教育に介入することは、保護者の自己決定権(憲法13条)、思想良心の自由(憲法19条)、家庭生活における個人の尊厳(憲法24条2項)を侵害するものと言わざるを得ない。

3 さらに、「親になるための学び」と称して、学校、地域、事業者らを挙げて「子どもが将来親になるために学ぶことを促す」ことは、子どもが様々な背景を抱えて多様な価値観を持つ存在であるということに配慮せず、一方的に親になることを選ぶことが素晴らしい(又は選ぶべきだ)という思想を事実上強いるものであり、子どもの自己決定権(憲法13条)、思想良心の自由(憲法19条)を侵害する。

4 以上から、当会は、家庭教育に対する公権力の過干渉につながるとともに、個人の自己決定権、思想良心の自由、家庭生活における個人の尊厳を侵害する本条例素案に反対する。

 

2021年(令和3年)9月9日

岡山弁護士会     
会長 則 武   透

 
 


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