(2021.06.10)重要土地等調査規制法案の廃案を求める会長声明

1 政府は,本年3月26日,「重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び規制等に関する法律案」(以下「本法案」という。)を閣議決定して,国会に提出した。5月28日,政府は,野党からの継続審議の求めに応じることなく,衆議院内閣委員会で採決を強行し,6月1日の衆議院本会議でも可決してしまい,今国会で成立する見込みである。

2 本法案は,「重要施設」の施設機能や「国境離島等」の離島機能を阻害する行為を防止するとの目的で,内閣総理大臣がこれらの存する地域で「注視区域」や「特別注視区域」を指定して区域内の土地や建物(以下「土地等」という。)の利用状況を調査し,重要施設等の機能を阻害するおそれがあると認めたときには,その利用者に対して利用中止等を勧告又は命令し,土地等の買い取りができるなどとし,命令に従わない場合には懲役刑や罰金刑を科すことを可能とするものである。
 しかし,本法案には以下のとおり多くの問題があることを指摘せざるをえない。

3 そもそも本法案制定の必要性に疑問がある。本法案は,自衛隊基地周辺の外国資本による土地取得を問題視し,その規制を求める声から立案された。
 ところが,政府は,これまで防衛施設周辺の土地の所有によって自衛隊の運用等に支障が生じていないと認めており(2009年11月20日政府答弁書,2020年2月25日衆議院予算委員会第八分科会山本朋広防衛副大臣答弁),2020年12月24日,国土利用の実態把握等に関する有識者会議の提言においても近時の具体例は挙げられていない。

4 また,本法案は規制対象も規制手段も不明確であり,人権侵害のおそれが極めて高い。
 本法案は,対象となる重要施設を自衛隊や米軍,海上保安庁のすべての施設のほか政令で定める「生活関連施設」とし,加えて国境離島等も島そのものを対象としていることから,調査規制の対象となる「注視区域」は無限定に拡大しうる。
 この極めて広汎な対象地から指定される「注視区域」で行うとされる「調査」において,内閣総理大臣は,関係行政機関等から「土地等の利用者その他の関係者」という広範な対象に関する情報提供を求めることができることとされているところ,その情報の範囲は何ら限定がないまま政令に委ねられている。
 したがって,この「調査」は,土地等の利用者その他の関係者の行動や交際範囲,思想信条など,際限なく拡大するおそれがある。
 次に,その防止が立法目的とされた施設機能又は離島機能を「阻害する行為」も限定されていないため,内閣総理大臣は曖昧な要件の下で罰則付き命令を広く行うことが可能となる。
 その結果,本法案は罪刑法定主義に反するおそれがあり,プライバシー権や思想・良心の自由,財産権等のほか,居住移転の自由や表現の自由,取材の自由等,多くの基本的人権が侵害されるおそれが大きい。
 さらに,「調査」においては「土地等の利用者その他の関係者」自身にも情報提供義務が課され,刑事罰をもって報告が強制される。これでは対象となった者のプライバシー権や思想・良心の自由は何ら保障されないことにもなる。

5 本法案は,その制定の必要性が裏付けられていない上に,指定された区域の土地等の利用者その他の関係者のプライバシーや思想・良心の自由などの多くの基本的人権を侵害するおそれが極めて大きい。
 よって,当会は,本法案に反対するものであり,今国会にて廃案とすることを求める。

 

2021年(令和3年)6月10日

岡山弁護士会     
会長 則 武   透

 
 


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