(2021.05.20)少年法改正案に反対する会長声明

1 はじめに
 政府は、2021年(令和3年)2月19日の閣議決定で、少年法改正案(以下「本改正案」という。)を今国会に提出し、そして、本改正案は衆議院会本会議で可決されている。
 本改正案は、18歳及び19歳の少年を少年法の適用対象であるとして、全件送致主義を維持している。この点は、18歳及び19歳の少年が類型的に未だ十分に成熟しておらず、成長発達途上にあって可塑性を有する存在であること、現行少年法が有効に機能してきたこと等を踏まえたものであり、当会が発出してきた会長声明(2015年(平成27年)5月13日の「少年法の適用年齢引き下げに反対する会長声明」、2017年(平成29年)3月10日の「改めて少年法の適用年齢引き下げに反対する会長声明」)と同様の姿勢と考えられるため、一定の評価に値するものである。
 しかし、本改正案が18歳及び19歳の少年を「特定少年」とした上で、18歳未満の少年と区別して例外的な規定をすることは、以下のとおり重大な問題を含むものである。

2 特定少年に係る原則逆送事件の対象範囲を拡大されていることついて
 現行少年法は第20条第2項により、検察官に送致することが原則とされている事件(以下「原則逆送事件」という。)を「故意の犯罪行為により被害者を死亡させた」事案に限定しているところ、本改正案では、この点を改正し、特定少年の場合は「死刑又は無期若しくは短期1年以上の刑に当たる罪の事件」まで拡張している。
 しかし、短期1年以上の刑に該当するケースを一律に原則逆送事件に含めてしまうと、18歳及び19歳の少年は、家庭裁判所におけるきめ細やかな調査や教育的手当を受ける機会を与えられずに社会に戻されることになり、本人の更生の機会を奪う可能性があるばかりか、再犯防止の観点からも問題がある。
 例えば、短期1年以上の刑に当たる罪としては、強盗罪があるが、罪名だけで振り分けをすると、主犯だけでなく共犯者まで同一罪名となってしまうことから、従前の人間関係に基づき、主犯からの依頼を断り切れず、やむを得ず強盗の際の見張りを担当させられたケースも本改正案では一律逆送の対象となってしまう。

3 特定少年の推知報道が許されるとされていることについて
 本改正案では、現行少年法第61条を改正し、公判請求された特定少年における推知報道を許容している。
 推知報道が禁止されている現行少年法第61条は、少年の名誉やプライバシーを保護するとともに、そのことを通じて少年の社会復帰や更生を図ることにその目的がある。今日においては、個人の情報が不特定多数の者に瞬時に拡散し、またその消去が容易でないことが社会問題になっており、個人の名誉及びプライバシーの保護の要請は、以前よりも格段に高まっている。18歳及び19歳の少年に推知報道が許容されることとなれば、当該少年の非行内容や生育歴、家庭環境等に関する極めてプライバシー性の高い情報が広く不特定多数の者に知れわたり、なおかつ半永久的に残存することになる。かかる事態が少年の社会復帰や更生を阻害することは明らかであり、到底許容することはできない。

4 特定少年に係る処分は「犯情の軽重を考慮して相当な限度を超えない範囲内で行わなければならない」とされていることについて
 本改正案では、少年が特定少年である場合には、「犯情の軽重を考慮して相当な限度を超えない範囲内において保護処分を行わなければならない」としている。
 しかし、少年の健全育成という少年法の目的からすると、処分を決するにあたっては、犯情の軽重よりも、個々の少年に応じた環境調整や教育的処遇こそが重視されるべきである。これは18歳及び19歳の少年でも全く異なることはない。
 したがって、特定少年につき、「犯情の軽重を考慮して相当な限度を超えない範囲内において保護処分を行わなければならない」とする本改正案は、18歳及び19歳の少年の更生を妨げるおそれがあるものである。

5 特定少年の「ぐ犯」除外
 本改正案では特定少年について「ぐ犯」の対象から除外している。
 しかし、少年法において、「ぐ犯」が処分の対象とされているのは、いまだ犯罪行為に至っていないが不良な行為をしている少年を早期に発見し適切な保護を加えることで、少年の健全な育成を図るともに、犯罪の発生を未然に防止しようとする点にある。
 実際、家出して反社会勢力に引き込まれた18歳及び19歳の少年が、「ぐ犯」として保護処分の対象となることで立ち直りの機会を得ている事例も少なくないのであり、「ぐ犯」を処分の対象から除外することは、それらの者から立ち直りの機会を奪い、将来の犯罪を防止する機会を失わせるものである。

6 資格制限の排除や不定期刑の排除について
 本改正案では、特定少年について不定期刑、換刑処分(労役場留置)の禁止、資格制限の特例は適用されないこととしているが、これらを18歳及び19歳であるからといって別異の扱いの必要は全くない。また、上記各規定は少年の健全育成の妨げとならないために設けられたもので、特に資格制限の特例は少年の更生意欲を支える重要な規定である。
 それにも関わらず、18歳、19歳の少年を上記各規定の適用除外とする本改正案は、少年の健全育成という少年法の理念に反するものである。

7 結論
 以上の理由から、本改正案は、18歳、19歳の少年について全件送致主義を維持したことは一定の評価に値するものの、特定少年について、先に述べた特異な扱いをするとされていることは、18歳、19歳の少年から、保護処分を受ける機会、社会復帰・更生の機会を不当に剥奪するものであり、少年法の理念である「少年の健全育成」に反するものである。
 よって、当会は、本改正案については、断固として反対の意見を表明する。

 

2021年(令和3年)5月20日

岡山弁護士会     
会長 則 武   透

 
 


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