(2020.03.10)法律事務所への捜索に抗議する会長声明
2020年1月29日,東京地方検察庁(以下「東京地検」という。)の検察官らが,東京地方裁判所裁判官が発付した令状に基づき,出入国管理法違反等被疑事件の関係先として,関連事件の弁護人であった弁護士の法律事務所の捜索を行った(以下「本件捜索」という。)。
日本弁護士連合会の調査によれば,本件では,弁護士が刑事訴訟法第105条に基づき押収拒絶権を行使したにもかかわらず,検察官らは無断で法律事務所の裏口から事務所内に立ち入り,弁護士からの再三の退去要請を無視して長時間にわたり滞留した上,法律事務所内のドアの鍵を破壊し,事件記録等が置かれている弁護士らの執務室内をビデオ撮影するなどしたとされる。なお,検察官らが押収に至った物は,弁護士らが捜索開始前に任意に呈示していた書面のみであった。
弁護士には,秘密を委託される業務及びこの業務を利用する市民等を保護するため,刑事訴訟法第105条により,押収拒絶権が保障されている。そして,同条に基づいて押収が拒絶された場合には,対象物を押収するための捜索も当然に許されない。本件捜索は,弁護士らが令状に記載された物について押収拒絶の対象物である旨を申し立てて押収拒絶の意思表示をしているにもかかわらず強行されたものであり,明らかに違法である。
また,本件捜索に先立つ2020年1月8日に,東京地検は当該事務所に対する一度目の捜索を試みたが,その際にも同様に,当時弁護人であった当該弁護士は押収拒絶権を行使し,検察官らを立ち入らせなかった。それにもかかわらず,上記のように本件捜索を強行したものであって,その違法性は決して看過できるものではない。加えて,検察官らはもとより,検察官からの再度の捜索差押令状発付請求に対して,捜索の必要性及び押収拒絶権等につき慎重な審査をすることなく,これを漫然と許可した東京地方裁判所の裁判官の対応も,公権力の行使をコントロールする令状主義の趣旨に鑑み,懸念を表明せざるを得ないものである。
憲法は,被疑者及び被告人の防御権及び弁護人依頼権を保障しており,弁護人は,被疑者及び被告人の権利及び利益を擁護するため,最善の弁護活動に努めなければならない。対立当事者である検察官が,弁護人に対し,その権利を侵害する違法行為に及ぶことは,我が国の刑事司法の公正さを著しく害するものである。併せて,裁判官が本件事情のもと検察官からの請求に応じて漫然と捜索差押を許可したことも大きな問題を孕むものと考える。
そこで,当会は,検察官に対して,違法な令状執行に抗議し,同様の行為を二度と繰り返すことのないよう求めるとともに,裁判官に対しても本件令状発付に際しての審査過程を改めて精査したうえで,今後の令状審査の厳格化を求めるものである。
2020(令和2)年3月10日
岡山弁護士会
会長 小 林 裕 彦