(2019.08.09)大崎事件第三次再審請求棄却決定に抗議する会長声明
最高裁判所第一小法廷は,2019年6月25日,いわゆる大崎事件第三次再審請求事件(請求人原口アヤ子氏等)の特別抗告審につき,検察官の特別抗告には理由がないとしたが,職権により,鹿児島地方裁判所の再審開始決定及び同決定を維持した福岡高等裁判所宮崎支部の即時抗告棄却決定を取り消し,再審請求を棄却した(以下「本決定」という。)。
大崎事件は,1979年10月,原口アヤ子氏が,元夫,義弟と共謀して被害者を殺害し,その遺体を義弟の息子も加えた4名で遺棄したとされる事件である。犯行を裏付ける客観的証拠はなく,共犯者とされた親族の供述を主な証拠として,逮捕以来,一貫して犯行を否認してきた原口アヤ子氏に対し,懲役10年の有罪判決が言い渡され,確定した。
原口アヤ子氏は,服役後の1995年に第一次再審請求を行い,鹿児島地方裁判所は2002年3月26日に再審開始を決定した。しかし,検察官の即時抗告により,再審開始決定は取り消され,特別抗告審において取消しが確定した。第二次再審請求審においても,再審への道は閉ざされていた。
2017年6月28日,第三次再審請求審の鹿児島地方裁判所は新証拠である法医学鑑定,供述心理鑑定について鑑定人の証人尋問を行い,証拠開示についても積極的な訴訟指揮を行うなど,丁寧な審理の結果,「殺人の共謀も殺害行為も死体遺棄もなかった疑いを否定できない」と結論付け,本件について二度目となる再審開始決定をした。これに対して検察官は即時抗告を申し立てたが,福岡高等裁判所宮崎支部は,再審開始の結論を維持し,検察官の即時抗告を棄却して,再審開始を認めた。本件は,同一事件において二度にわたり再審開始決定がなされたのである。そして,地裁及び高裁において,少なくともそれぞれの合議体の過半数の裁判官が確定判決に疑念を呈したのである。
ところが,最高裁判所第一小法廷は,検察官の特別抗告には理由がないとしたにもかかわらず,あえて職権により地裁及び高裁が行った事実認定に踏み込んで,原決定及び原々決定を取り消した上,請求を棄却するという異例と言うべき本決定を行った。
本決定は,地裁及び高裁が丁寧な事実認定を行って再審開始を認めたにもかかわらず,書面審理のみで結論を覆したものであり,無辜の救済の理念や「疑わしいときは被告人の利益に」と明言した白鳥・財田川決定を骨抜きにするものであると言わざるを得ない。
少なくとも,最高裁判所第一小法廷は,検察官の特別抗告に理由がないとしたのであるから,仮に事実認定に疑問を呈するのであれば,再審開始決定を確定させた上で,事実認定の審理については再審公判の裁判所に委ねるべきであった。
本決定は,最高裁が「疑わしいときは被告人の利益に」という原則を自ら踏みにじり,人権擁護の最後の砦としての役割を果たすことを自ら放棄し,刑事司法制度全体に深い禍根を残すものと言わざるを得ない。
よって,当会は,本決定に対して強く抗議する。
2019年(令和元年)8月9日
岡山弁護士会
会長 小 林 裕 彦