生活保護基準の引下げに強く抗議する会長声明

厚生労働大臣は,2018年(平成30年)9月4日付けで,生活保護法による保護の基準の一部を改正し,同年10月1日から適用することを告示した(以下「本件告示」という。)。当会は,同年3月14日,2018年度(平成30年度)から生活扶助基準を引き下げる案に対して強く反対する意見表明を行ったところであるが,当会の意見を含む多くの反対意見は聞き容れられることなく,生活扶助基準の引下げが強行された。
 これまでにも,2004年(平成16年)からの老齢加算の段階的廃止,2013年(平成25年)からの生活扶助基準の引下げ(平均6.5%,最大10%),2015年(平成27年)からの住宅扶助基準引下げ・冬季加算の削減と連続した生活保護基準の引下げがなされており,本件告示前の生活保護基準ですら健康で文化的な最低限度の生活を維持するために十分なものとはいい難いものであった。それにもかかわらず,本件告示による生活保護法による保護の基準の一部改正は,生活保護基準の更なる引下げを推し進め,特に,子どものいる世帯と高齢世帯の生活に深刻な影響を生じさせるものである。
 今回の基準改定では,生活扶助費が増額される世帯があるものの,減額される世帯が多く,全体では約7割の世帯には引下げとなる。具体的には,岡山市及び倉敷市の生活扶助費について見ると,夫婦子2人世帯(40代夫婦,中学生1人,小学生1人)では月額約9000円,高齢単身世帯(65歳)では月額約4000円の減額となる。また,母子加算は月額平均2万1000円から1万7000円に,児童養育加算は子ども1人につき月額1万円又は1万5000円から一律1万円に引下げられるなどの削減も行われる。
 今回の生活扶助基準引下げの根拠は,生活扶助基準を第1・十分位層(所得階層を10に分けた下位10%の階層)の消費水準に合わせるというものである。
 しかし,日本では,生活保護の捕捉率(生活保護を利用する資格のある人のうち実際に利用している人が占める割合)が2割ないし3割程度と推測されている。すなわち,第1・十分位層の中には,自らが生活保護を利用できるにもかかわらず,生活保護基準を下回る生活を余儀なくされている人たちが多数存在している。この層を比較対象とすれば,生活保護基準引下げのスパイラルが際限なく続くことになってしまい,そもそも,生活扶助基準を第1・十分位層の消費水準に合わせること自体,合理性がないものといわざるを得ない。実際に,第1・十分位層の単身高齢世帯の消費水準が低すぎることについて,生活保護基準部会においても複数の委員が問題として指摘している。さらに,2017年(平成29年)12月14日付同部会報告書も,子どもの健全育成のための費用が確保されないおそれがあること,一般低所得世帯との均衡のみで生活扶助基準を捉えていると絶対的な水準を割ってしまう懸念があることに注意を促しているところである。
 今回の引下げにおいては,あまりに多額の引下げとなる世帯においては,減額幅を最大でも5%にとどめるという調整が行われたが,5%の減額でも大きな減額であるし,このような調整が必要であるということ自体,減額根拠に理由がないことを表している。
 いうまでもなく,生活保護基準は,憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」の基準であり,最低賃金,就学援助の給付対象基準,各種社会保険制度の保険料や一部負担金の減免基準,地方税の非課税基準等の労働・教育・福祉・税制などの多様な施策の適用基準と連動している。生活保護基準の引下げは,生活保護利用世帯の生存権を直接脅かすとともに,生活保護を利用していない市民生活全般にも多大な影響を及ぼすものである。
 今回の更なる生活扶助基準の引下げは,これまでの度重なる生活保護基準の引下げによって既に「健康で文化的な最低限度の生活」を脅かされている生活保護利用者を一層追い詰め,さらには市民生活全般の地盤沈下をもたらすものであり,断じて容認することはできない。
 よって,当会は,本件告示による生活保護基準の一部改正に対し,強く抗議する。

2019年(平成31年)1月16日

岡山弁護士会     
会長 安 田   寛

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