司法修習生に対する給費制の復活を求める会長声明

司法修習生に対する給費制の復活を求める会長声明

1 2013年(平成25年)9月10日,平成25年度司法試験の結果が発表され,2049名が合格した。これらの者の大半が第67期司法修習生として最高裁判所に採用され,当会においても,岡山地方裁判所配属の42名の司法修習生を司法修習指導のため迎え入れた。
しかし,新第65期司法修習生から,「裁判所法の一部を改正する法律」(平成16年法律第163号)が施行され,司法修習期間中の生活費等の必要な資金が国費から支給される給費制が廃止され,これを貸与する制度(以下「貸与制」という。)に移行している。
2 当会は,2011年(平成23年)7月13日には「給費制の存続を求める会長声明」,2013(平成25年)1月23日には「司法修習生に対する給費制の復活を求める会長声明」を発し,同年5月13日には,法曹養成制度検討会議の中間的取りまとめに対するパブリックコメントとして,司法修習生に対する給費制の復活を求めるなど,司法修習生に対する貸与制に反対し,給費制の復活を求める活動を続けてきた。
3 にもかかわらず,法曹養成制度検討会議は,同年6月26日,「法曹養成制度検討会議取りまとめ」(以下「取りまとめ」という。)において,貸与制を前提とした上で,(1)分野別実務修習開始に当たっての転居費用の支給,(2)通所圏内に住所を有しない者に対する集合修習期間中の司法研修所への入寮,(3)司法修習生の兼業許可に関する運用の緩和の各措置を,可能な限り第67期司法修習生から実施すべきであるとした。
そして,今後,司法修習生に対する経済的支援については,法曹養成制度検討会議の後継組織である法曹養成制度改革推進会議の下に設置された法曹養成制度改革顧問会議において,司法修習生の地位及びそれに関連する措置の中で検討されることになっている。
4 しかし,法曹養成制度検討会議が「取りまとめ」において指摘した各措置は,あくまで現行法下における運用改善による応急措置的な,極めて限定的な方策に過ぎず,司法修習生に対する経済的支援としては,給費制を復活することが不可欠である。
(1)そもそも,戦後一貫してわが国の司法は,日本国憲法の下で三権の一翼として国民の人権・権利擁護のため重要な役割を求められ,司法修習は,この司法を担い司法をつかさどる法曹である裁判官・検察官・弁護士の養成のための統一修習制度として制度化された。
そして,これら法曹の資格要件としての司法修習生の地位の重要性に鑑み,司法修習に人材を吸収し,また司法修習生に修習に専念させる等の見地から,特に一定額の給与が支給されることとされていたものである。
かかる日本国憲法の要請や社会的背景に何ら変わりはなく,また司法修習生は,司法の担い手たる法曹の予定者として,国の厳格な規律の下,国の権力行使に関与し,国民の権利義務に関わる法曹の職務そのものに密接に関連する準備過程に従事していることにも何ら変わりはない。
(2)また,日本弁護士連合会が行った「新第65期司法修習生に対する生活実態アンケート」(回答者数717通,回答率35.8%)及び「第66期司法修習生への修習実態アンケート」(回答者数850通,回答率41.8%)において,多数の司法修習生から,「司法修習配属地で住宅を借りるにあたり契約を断られた」,「貸与金返済の経済的不安感から,書籍購入や医者にかかることを自粛した」等の声が寄せられている。このように,司法修習生が司法修習に専念するに当たり,貸与制が大きな妨げとなっている。
(3)さらに,司法修習生の多くは,大学及び法科大学院の奨学金等の返還義務を負担しており,貸与制はその返還義務を加算することになり,法曹としてのスタート時点において多額の債務を負担することとなる。
上記アンケートにおいても,貸与制に移行したことによる経済的な不安等の理由から,司法修習生となることを辞退しようと考えたとの回答が,新第65期司法修習生のうち174名,第66期司法修習生のうち111名から寄せられた。
貸与制が今後とも継続されるのであれば,有為な人材が経済的事情によって法曹への道を断念する事態がさらに悪化し,法曹志願者数が減少する一方である。かかる事態は,2012年(平成24年)6月1日付け衆議院法務委員会における「経済的事情によって法曹への道を断念する事態を招くことがないようにする」との附帯決議に反しており,かかる事態を放置すれば,国民の人権・権利を擁護する担い手としての司法そのものの弱体化は必至である。
5 以上の理由により,当会は,法曹養成制度改革推進会議及び法曹養成制度改革顧問会議を含め,国に対し,一刻も早く,司法修習生に対する給費制を復活し,新第65期司法修習生,第66期司法修習生及び第67期司法修習生に対しても遡及的に適切な経済的措置が採られることを強く求める。

平成25(2013)年12月4日

岡山弁護士会
 会長 近 藤 幸 夫

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