少年法の適用年齢引下げに反対する会長声明

少年法の適用年齢引下げに反対する会長声明

選挙権年齢を18歳以上に引き下げる公職選挙法改正案が、今国会(第189回通常国会)に提出された。同案附則11条で、「少年法その他の法令の規定について検討を加え、必要な法制上の措置を講ずるものとする」とされていることから、自民党は、少年法の適用年齢などの引下げについて検討するため、「成年年齢に関する特命委員会」(以下「特命委員会」という)を設置した。そして、2015年4月14日に開催された特命委員会の初会合において、「18歳から選挙権を持つようになることと関連付けて、果たす義務についても考えるべきであり、少年法の適用年齢も18歳未満にすべきではないか」という趣旨の発言があったと、報道されている。
しかし、法律の適用年齢を考えるにあたっては、それぞれの法律の立法趣旨に照らし、個別法ごとに慎重かつ具体的に検討すべきである。したがって、同じ適用年齢に関する問題であっても、法の立法趣旨によっては異なる年齢とすることも当然あり得、選挙権年齢が18歳以上となったからといって、少年法の適用年齢も当然に18歳未満に引き下げるということにはならないはずである。
そもそも、旧少年法では、適用年齢を18歳未満と規定していた。しかし、1948年に制定された現行少年法は、この程度の年齢(18歳、19歳)の者は、未だ心身の発達が十分でなく、環境その他の外部的条件の影響を受けやすく、「刑罰」を科するより保護処分によってその「教化」を図る方が、立ち直りのためには適切である場合が極めて多い(1948年6月25日付参議院司法委員会における佐藤藤佐政府委員の説明参照)ことを理由に、適用年齢を20歳未満に引き上げた。このように、少年法の適用年齢は、少年の「教化」という点を重視し、個人の権利義務とは異なる観点から定められたものである。したがって、少年法の適用年齢を考えるときに、選挙権年齢と関連して議論を開始すること自体が、少年法の趣旨に反し、許されない。
たしかに、現代の若年者は、身体的には早熟傾向にある。しかし、他方で、精神的・社会的自立が遅れたり、人間関係をうまく築くことができなかったりする傾向にあるとも指摘されている(2008年9月30日付法制審議会民法成年年齢部会第8回会議配布資料32)。かかる現代の若年者の特徴からすると、「立ち直り」のために必要とされるのは、「刑罰」による処罰ではなく、充実した「教化」であると考えるべきである。また、仮に少年法の適用年齢が18歳未満に引き下げられた場合、18歳、19歳の者については、現行少年法の下で行われている、犯罪の背景・要因となった若年者の資質や環境上の問題点の調査・分析が行われなくなり、「立ち直り」のための手当がなされず、極めて不当である。
さらに、特命委員会において、「続発する少年の凶悪犯罪に対処するために少年法の適用年齢を引き下げるべき」という趣旨の発言もあったと、報道されている。しかし、少年犯罪の件数は、2004年以降、減少し続け、凶悪犯罪も横ばいまたは減少傾向にある(警視庁「少年非行情勢」2014年1月〜12月)ことを考えると、少年法の適用年齢を18歳未満に引き下げることによって、犯罪抑止効果が得られるという合理的な立法事実は存在しないというべきである。
以上より、選挙権年齢に合わせて少年法の適用年齢を18歳未満に引き下げることは、少年法の立法趣旨に反し、かつ、合理的な立法事実に基づかないので、当会は反対を表明する。

2015(平成27)年5月13日

岡山弁護士会
会長 吉 岡 康 祐

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