(2023.11.13)岡山県内における罹災証明書申請の際に被災住家の写真の提出を求める取扱いの是正を求める会長声明
1 平成30年7月豪雨災害から5年が経過した。本年(令和5年)の夏も各地で豪雨災害が発生したが、このような災害発生時に被災者がまずすべきことは、市町村に罹災(りさい)証明書を申請することである。
現在の被災者支援制度では、住家の被害の程度に応じて受けられる支援(被災者生活再建支援金の支給、住宅の応急修理、応急仮設住宅への入居等)が規定されていることから、罹災証明書はこれらの被災者支援制度を利用するために欠かせないものであり、「復興へのパスポート」と言われるほど重要なものである。
罹災証明書について定めた災害対策基本法90条の2には、「市町村長は、当該市町村の地域に係る災害が発生した場合において、当該災害の被災者から申請があつたときは、遅滞なく、住家の被害その他当該市町村長が定める種類の被害の状況を調査し、当該災害による被害の程度を証明する書面(第4項において「罹災証明書」という。)を交付しなければならない。」と規定されている。この規定には、どこにも被災住家の写真を申請の必要書類とする旨は記載されておらず、被災者が被害状況を証明するのではなく、市町村が住家の被害状況を調査して、遅滞なく罹災証明書を交付することが定められている。
2 岡山県内の市町村を調査したところ、市町村のウェブサイト(オンラインで確認できる条例を含む)において、県内27市町村のうち16市町村で罹災証明書に関する記載が確認できた。
このうち、玉野市のみ、罹災証明書の申請にあたって写真を必要書類とせず、「被害状況がわかるもの(写真など)があれば添付してください。」と適切な記載がなされていた。
その他、岡山市など7市町においては、必要書類(1町においては添付書類)と記載されながら、写真が無くても申請できる場合がある、ないしは提出できる旨の記載があり、改善の余地はあるものの、概ね制度趣旨に沿った記載がなされていた。
しかし、罹災証明書についての記載が確認できた16市町村のうちの8市町村では、「被災状況が分かる写真」が罹災証明書申請の必要書類と記載されており、上記のような写真が無くても提出できる旨の記載も無かった。
この点につき、内閣府は、令和2年7月6日付事務連絡において、(自己判定方式という例外的取扱い以外の場合には)罹災証明書の「申請時に写真の添付は必須ではありませんので、念のため申し添えます。」と罹災証明書の申請に写真が不要であることを全国の市町村に周知しているところである。
3 近年、スマートフォンの普及によって写真を撮ることは容易にはなっているが、被災によりスマートフォンを失ったり、充電が無くなったりするなど、被災状況によっては写真を撮ることができない被災者が発生することは起こりうる。また、撮影ができた場合の提出方法として、スマートフォン画面上での掲示でも良いとする市町も存在するものの、申請書類として提出するためには、写真を印刷する必要がある。しかし、地域の写真店が被災している場合や自家用車の浸水や道路の通行止めにより印刷可能な場所への交通手段がない場合などは、書類を準備することも困難である。そうなると、写真が無いので罹災証明書を申請できないと諦めてしまう被災者が出るおそれがある。
当然ながら、写真は被災直後の被害状況の保全としての意味があるため、玉野市の記載のように、有用な参考資料として可能であれば写真の提出を求めることは良いと考える。しかし、写真を申請の必要書類とすることは、被災住家の被害の程度を遅滞なく証明するという罹災証明書の趣旨に反している。
申請や調査の遅れは、被災者支援の遅れに直結する。自宅が被災したにもかかわらず、罹災証明書が未交付のため仮設住宅への入居ができないことも考えられるほか、各市町村における被災状況の把握を困難にし、復興支援に支障を来すおそれもある。
このような事態は、被災者支援を早期に開始し、被災者支援を全うするという災害対策基本法90条の2の趣旨を没却することになる。
令和5年7月15日からの梅雨前線による大雨災害で大きな被害のあった秋田市では、罹災証明書の申請に写真を必要書類としていたことから、窓口が混乱しているとの報道がなされていた。
罹災証明書の申請において被災住家の写真を必要書類としている問題は、全国的な喫緊の問題であり、日本弁護士連合会も令和5年9月15日に「罹災証明書交付申請において、被災住家の写真の提出を求める等の取扱いの是正を求める意見書」を発出しているところである。
4 罹災証明書は、被災者の生活再建の入口である。岡山県内において、罹災証明書の申請に写真を必要とする取扱いが早急に是正されるために、岡山県に対しては、県内各市町村に罹災証明書の申請に被災住家の写真を必要としない取扱いとするよう助言することを求める。また、岡山県内の各市町村に対しては、罹災証明書の申請に被災住家の写真を必要としない取扱いに変更し、その旨を各市町村の住民に対しウェブサイト等で周知するよう求める。
以上
2023年(令和5年)11月13日
岡山弁護士会
会長 竹 内 俊 一
なお、日本弁護士連合会も意見書を発出しておりますので、参考までにリンクを掲載いたします。
☞ 罹災証明書交付申請において、被害住家の写真の提出を求める等の
取扱いの是正を求める意見書(日本弁護士連合会)