(2023.07.18)平成30年7月豪雨から5年を迎えての会長声明
1 はじめに
平成30年7月豪雨災害の発生から5年を迎えた。岡山県内では、公共施設等の復旧はほぼ完了し、仮設住宅に入居する被災世帯も今月5日までにゼロとなり、被災地の復興も進んでいる。
当会は、被災者支援の一端を担うべく、発災直後より、無料電話相談、法律相談センターでの災害相談無料化を行ったほか、被災地での出張無料相談会を100回以上開催し、被災者から1800件を超える相談を受けてきた。また、当会は、平成30年7月豪雨災害における自然災害債務整理ガイドラインに係る登録支援専門家弁護士の委嘱依頼を205件受け、推薦を行うとともに、災害ADR(災害に起因する紛争の和解あっせん)も実施し、17件の申立てを受けてそれらに対応してきた。
これらの支援活動を通じて把握した課題について、当会は発災からこの5年を迎えるまでに、被災者支援に関する会長声明を8回発出してきた。しかしながら、これまでの声明で未だ実現されていない課題もあり、その中でも特に重要な、①被災者生活再建支援金を国内すべての災害の被災者に支給するための法改正及び条例の制定、②被災者に対する住宅支援政策の柔軟化、③避難所での個室の確保、④平成30年7月豪雨における加算支援金の申請期限の1年間延長の4点を5年というこの節目に再度要望する。
2 被災者生活再建支援金を国内すべての災害の被災者に支給するための法改正及び条例の制定
当会は、「平成30年7月豪雨から2年を迎えるにあたっての会長声明」(令和2年7月10日発出)において、被災者生活再建支援金の国内すべての災害における支給についての法整備を国に求めたが、未だ実現に至っていない。
被災者生活再建支援法が適用されなかった令和4年台風第11号による被害を受けた世帯は、自宅が全壊した世帯であっても被災者生活再建支援金は支給されない。それから1か月も経たずに発生した令和4年台風第15号により被災者生活再建支援法が適用された静岡市内においては、自宅が半壊以上の被害を受けた被災世帯に対して被災者生活再建支援金が支給されるのであり、台風によって同程度の被害を受けている被災者であるにもかかわらず、公平性を欠き、酷な結果となっている。
平成30年7月豪雨において、被災者生活再建支援金が支給されることで自宅再建の目途が立った多くの被災者を目にしてきた当会としては、国に対し再度、被災者生活再建支援金を国内すべての災害の被災者に支給できるよう法改正を要望する。
また、岡山県内の各自治体に対しては、上記の法改正がなされるまでは、被災者生活再建支援金の支給がない比較的小規模の災害において、被災者間の公平性を欠くことがないよう、被災者生活再建支援金と同程度の支援金を各自治体が独自に被災者に支給できることを内容とする条例の制定を要望する。
3 被災者に対する住宅支援政策の柔軟化
当会は、「平成30年7月豪雨における住宅支援に関する会長声明」(令和元年9月24日発出)において、国に対して、一度自宅に戻っても仮設住宅や災害公営住宅に住むことができるようにするなど、被災者の実態に即した柔軟な住宅支援ができるような運用の改善を要望したが、未だ実現していない。
現在の被災者に対する公的住宅支援政策は、避難所(又は避難先)から仮設住宅、仮設住宅から災害公営住宅への流れが原則となっている。すなわち、仮設住宅などから一度自宅に戻ってしまうと、その後自宅での生活が困難となっても、仮設住宅や災害公営住宅に再度住むことは原則としてできない状況が続いている。再建できていない自宅での不自由で不衛生な生活を強いられている被災者が生まれていることから、実態に即した柔軟な住宅支援ができるよう、運用の改善を国に要望する。
4 避難所での個室の確保
「平成30年7月豪雨から2年を迎えるにあたっての会長声明」(令和2年7月10日発出)において、避難所のいわゆる3密状態を避けるために、小学校の体育館などの仕切りのない一箇所に大勢を集めるのではなく、個室の多くある避難所を早急に確保することを岡山県内の各自治体に求めた。
同声明を発出して以降、幸いにも岡山県内において大規模災害は発生していないが、全国に目を向けてみると令和3年7月静岡県熱海市土石流災害において地域の特色を活かして地元のホテルや旅館を避難所にする取り組みが見られたり、コロナ禍ということで避難所にテントが置かれたりしている報道も目にすることが増えた。しかし、全国的に恒久的な取り組みにまでは至っていない。
そこで、避難所における感染症の伝染を予防し、ひいては災害関連死を防ぐために、再度、岡山県及び県内各自治体に対して、多くの個室を備えた避難所を各自治体が早急に確保できる恒久的体制作りを岡山県が主導し、県内各自治体と協力して進めることを要望する。
5 平成30年7月豪雨における加算支援金の申請期限の1年間の延長
「被災者生活再建支援金制度における加算支援金未申請世帯への適切な支援と加算支援金申請期限の延長を求める会長声明」(令和4年10月24日発出)において、加算支援金の申請期限を現在の令和5年8月4日からさらに1年間延長することを要望したが、未だ申請期限が延長されたとの情報はない。
昨年8月末現在、倉敷市内で加算支援金の支給対象となったのは4803世帯であったが、本年5月31日時点では、4845世帯が対象となっている。約9か月で42世帯が増加しており、発災から4年が経過した時点でも加算支援金を申請できるのにしていなかった世帯がいたことがわかる。また、本年5月31日時点で、自宅を再建(賃借を含む。)すれば加算支援金の支給対象となる基礎支援金の支給を受けている世帯が5477世帯となっており、加算支援金の支給を受けている世帯と600世帯以上の差がある。この600世帯以上の中には自宅再建を諦めて親族宅に身を寄せたり、支給対象となっていない公営住宅へ入居したりした世帯があるとしても、未だに数百世帯は加算支援金の支給を受けることができるにもかかわらず申請していないものと考えられる。
そこで、当会は、再度、岡山県に対して、加算支援金の申請期限を現在の令和5年8月4日からさらに1年間延長することを要望する。
6 終わりに
平成30年7月豪雨災害の発生から5年間、被災地の復興に尽力された自治体、支援団体、ボランティアなど多くの支援者の方々に心から敬意を表したい。
ただ、5年が経過したことで復興が終わったわけではない。今後は、将来の災害に備え、災害が起こってしまった場合に被害を最小限度にし、円滑な復興を実現することを考えながら街づくりを考える「事前復興」の考えと、被災者一人ひとりの生活再建を連携して支援していく「災害ケースマネジメント」を岡山県内の支援者で共有することが重要と考える。
また、岡山弁護士会は、最後の一人まで取り残さないよう被災者支援を継続していくことをここに改めて決意する。
2023年(令和5年)7月18日
岡山弁護士会
会長 竹 内 俊 一