沖縄における機動隊による地元紙記者排除に強く抗議する会長声明
1 沖縄県の米軍北部訓練場(東村高江など)の新たなヘリコプター離着陸帯(ヘリパッド)建設をめぐり,本年8月20日午前,工事車両の搬入を阻止するために県道上に座り込んでいた人たちに対し,警察官(機動隊員)が強制排除を始めたが,地元新聞社である琉球新報,沖縄タイムスの各記者がその模様を取材していた。
両新聞社を含む報道によると,その取材中に,琉球新報の記者は,機動隊員に両腕をつかまれ,背中を押されて約40メートルも移動させられた。その後,再度,機動隊員に両腕をつかまれ,警察車両の間に押し込められた。排除される際に,カメラに付けていた同社の腕章を示した上で,「新報の記者です。取材なんです。」と訴えたが,聞き入れられず,約15分間にわたって,取材の機会を奪われた。
また,沖縄タイムスの記者も,社員証を見せ,記者であることを訴えたにもかかわらず,琉球新報の記者と同様に,2度にわたって強制排除され,警察車両の間で身動きがとれない状況におかれるなどして,約30分間にわたって取材活動が制限された。
2 機動隊員による上記各行為は,憲法21条で保障されている国民の知る権利及びそれと表裏一体をなす報道の自由,同条の精神に照らして十分尊重されるべき取材の自由に対する重大な侵害である。
言うまでもなく,報道機関の報道は,民主主義社会において,国民が国政に関与するにつき,重要な判断の資料を提供し,国民の「知る権利」に奉仕するものである(最高裁大法廷昭和44年11月26日決定)。
今回の取材対象は,基地建設に抗議する市民を,国家権力である警察をもって強制排除する現場である。強制排除の法的根拠について疑問が示されるなか,国家権力の行き過ぎをチェックするため,現場取材から事実を報道し,広く国民に提供する報道機関の役割は極めて大きい。
3 また,特に沖縄の人々にとっては,近世まで独立国家として日本本土とは異なる歴史を歩み,太平洋戦争では住民を巻き込んだ大規模な地上戦が行われ,戦後米軍統治下を経て,昭和47年に本土復帰したという経緯から,米軍および日本政府が沖縄に対してどのような態度で臨んでいるのかを知ることは,沖縄の今後の在り方を考える上で極めて重要である。
地元紙2紙は,このような沖縄の歴史的な経緯を踏まえ,こうした沖縄の人々はもちろんのこと,広く国民に対しても,沖縄の抱える基地問題を考える上で不可欠な情報を継続的に提供し続けている。
当会においても,2015年(平成27年)5月30日,沖縄の基地問題について,沖縄発の生の情報に基づき市民とともに考える,「沖縄と岡山から民主主義と安全保障を考える」と題した憲法講演会を開催したが,この集会により,沖縄で実際起きている事実や基地問題を巡る沖縄県民の感情を,多くの国民が知ることの重要性を再認識した。
4 当会は,今般,基地問題の最前線で起きている事実を伝えるという使命のもと取材を続けていた新聞記者が機動隊員により妨害され,報道の自由が侵害されたことに強く抗議し,今後同様の事態が発生しないよう強く申し入れるものである。
2016(平成28)年11月9日