「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」(いわゆる「カジノ解禁推進法」)の成立に抗議し、法律の廃止を求める会長声明
「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」(いわゆる「カジノ解禁推進法」)の成立に抗議し、法律の廃止を求める会長声明
「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」(以下、「カジノ解禁推進法」という。)が、2016年(平成28年)12月15日成立した。
カジノ解禁推進法は、2013年(平成25年)12月に国会に提出されたものの、実質的な議論が行われないまま、一旦廃案となり、その後2015年(平成27年)4月に再提出されたものの、1年半以上もの間全く審議されなかった。
ところが、突如、2016年(平成28年)11月30日から法案の審議が始まり、わずか2週間後の12月15日未明に成立となった。
当会は、2014年(平成26年)10月22日、同法案に反対する旨の「カジノ解禁推進法案に反対する会長声明」を発しているところであり、その理由として、次のような点を指摘していた。まず、カジノは、刑法上の賭博に該当することは明白であることから、カジノの設置・運営を解禁しようとするならば、その違法性が阻却される根拠が必要である。しかし、カジノ解禁推進法では、民間事業者がカジノの経営を行うことを前提としており、違法性が阻却される理由は明らかでなく、これでは賭博罪の違法性が阻却され得ない。また、カジノ施設の設置により著しい弊害(ギャンブル依存症、多重債務者の増大、青少年の健全育成への悪影響、暴力団対策上の問題、マネー・ロンダリング対策上の問題)の発生が予見され、これらの点を考慮するならば、仮に喧伝されているような経済効果があったとしても推進すべきではないこと等を指摘した。
カジノ解禁推進法は、刑法が賭博を犯罪としている中で、民間賭博を認めることの法秩序全体の整合性を欠いていることに何ら変わりはない。また、カジノ解禁推進法第10条第8号では、「カジノ施設の入場者がカジノ施設を利用したことに伴いギャンブル依存症等の悪影響を受けることを防止するために必要な措置に関する事項」について、必要な措置を講ずるとしているが、当該規定は、抽象的な表現に留まっているだけでなく、我が国の実態に照らしても、何らカジノ解禁推進法を正当化するものではない。
そもそもギャンブル依存症とは、単に、ギャンブルが好きな傾向があるというものではなく、国際的に診断基準が定められ、深刻な行動障害を伴う疾患であるところ、我が国におけるギャンブル依存症の人数は推定で536万人以上、国民の中に占める依存症の有病率は4.8パーセントとされている。これは、米国や韓国などと比較して、突出して高い割合である(米国1.6パーセント、韓国0.8パーセント)。
つまり、もともと我が国はギャンブル依存症が深刻な問題でありながら、必要な対策が取られなかったため、ギャンブル依存症の割合が高い状態となっている。十分な対策を行うことは、当然に必要なことであり、民間賭博を解禁する代わりに、対策を行えば足りるというものではない。ギャンブル依存症が重篤な疾患であることを看過し、さらに民間賭博を解禁するならば、ギャンブルに接する機会が増加するのであるから、依存症患者が増加することもまた、容易に予測できる。ギャンブル依存症は、その疾患を抱える者だけでなく、家族を始めとする周囲にも深刻な影響を及ぼすのであって、これ以上、新たなギャンブル依存症患者が増加するような施策を採ることは、許されるものではない。
以上より、カジノ解禁推進法は、当会がかねてから指摘している問題点について解消策が講じられておらず、その審議経過も拙速といわざるを得ない。
よって、当会は、カジノ解禁推進法の成立に断固抗議し、その廃止を求める。
2017年(平成29年)3月8日
岡山弁護士会
会長 水 田 美由紀