(2019.09.24)平成30年7月豪雨における住宅支援に関する会長声明

1 はじめに
 当会は,平成30年7月豪雨災害の被災者に対し,発災直後から,無料電話相談,現地での無料法律相談会や県内各地の法律相談センターでの無料法律相談を実施し,1600件を超える法律相談を受けている。その中で,最も多いものが住宅に関する相談であることからも,住宅支援が被災者支援の要になることは明らかである。
 そこで,当会は,国及び岡山県,岡山県内の各市町村に対し,以下のとおり①住宅建設にかかる利子補給金制度の創設,②仮設住宅の供与期間の延長,③災害公営住宅の建設戸数の増加,④被災者に対する住宅支援政策の柔軟化,を要望する。

2 住宅建設・購入にかかる利子補給金制度の創設について
 岡山県において,金融機関からの融資を受けて住宅の復旧を行う被災者に対し市町村が利子補給を行えるよう,県がその費用の一部を補助する「平成30年7月豪雨に係る岡山県災害復興住宅建設資金等利子補給補助制度」が創設された。これにより,各市町村において,災害時の災害復旧のための利子補給制度が創設しやすくなった。
 現在のところ,倉敷市が,「住宅災害復旧等資金利子補給金」の対象を,平成30年7月豪雨で被災した住宅に代わる住宅の建設・購入にも拡大しており,また,岡山市でも同様の制度を開始する計画であると報道がなされている。しかし,岡山県内のそれ以外の市町村では,現時点で住宅建設・購入に当たっての融資に利子補給を行う制度は設けられていない。住宅建設・購入に当たっての融資に利子補給を行うことは,住宅の復旧が必要な被災者の財政的負担を軽減し,復興への支援となるものである。各市町村においては,早急に,岡山県の上記制度を活用し,金融機関からの融資を受けて住宅の復旧を行う被災者に対し市町村が利子補給を行う制度を創設されるよう要望する。

3 仮設住宅の供与期間の延長について
 仮設住宅の供与期間は2年とされているところ,現在,約2500世帯が仮設住宅に入居しており,災害公営住宅は工事の着工にすら至っていない。当会の災害無料相談にも,仮設住宅に入居しているが,まったく自宅の再建のめどが立っていない被災者から,将来の住宅に関する相談が多く寄せられている。最近では,仮設住宅の供与期間が残り1年を切ったことで,その後の住宅の不安に対する相談が増えている。
 平成30年7月豪雨災害は,「特定非常災害」に指定されているので,「特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律」第8条によりみなし仮設住宅の供与期間の延長をすることが可能である。
 このような状況があることから、岡山県が,仮設住宅の供与期間の延長について国との協議を始めたとの報道もあった。
 したがって,岡山県に対し,仮設住宅の供与期間の延長について国との協議を継続し,早急に,仮設住宅の供与期間を延長するよう要望する。また,国に対し,被災地である岡山県からの要望を尊重し,被災者の住宅への不安を緩和するため,早急に,仮設住宅の供与期間の延長を認めるよう要望する。
 加えて,岡山県に対し,仮設住宅の供与期間を延長した場合にはその旨を早期に公表するよう要望する。

4 災害公営住宅の建設戸数について
 現時点で,平成30年7月豪雨で被災された約2500世帯が仮設住宅に入居されている中で,災害公営住宅の建設予定戸数が倉敷市で90戸と発表されている。
 しかし,東日本大震災において,岩手県が全壊戸数の約3割,宮城県が全壊戸数の約2割の災害公営住宅を建設したことと比較すると,全壊戸数が約4600戸ある倉敷市において,90戸のみの建設(全壊戸数の約2パーセント)では少なすぎる懸念がある。
 また,建設戸数の決定にあたっては,被災者の現状やニーズを丁寧に調査する必要がある。そして,被害者のニーズ調査に当たっては,東日本大震災における釜石市での調査結果によると,公的借家を望む世帯は2011年夏には13.6%と少なかったのに対し,2012年夏には43.7%,2013年冬には39.3%と変化していることから,一度のニーズ調査で判断するのではなく,継続したニーズ調査を行うべきである。
 ついては,被災者のニーズを丁寧に調査した上で,必要十分な戸数の災害公営住宅を建設すべきである。
 さらに,建設型の仮設住宅が少なく,多くの被災者がみなし仮設住宅に入居したことで地元を離れたことにより,地域のコミュニティが失われつつある現状がある。真の災害の復興には,地域のコミュニティの存在が極めて重要であるから,これらをできる限り維持するため,まとまった戸数の災害公営住宅を各コミュニティに建設すべきである。
 上記の倉敷市のほか,総社市においても,災害公営住宅の建設が発表されているが,両市に対しては,以上のとおり,被災者のニーズにあった戸数の災害公営住宅を,各コミュニティのまとまりに配慮しながら建設するよう要望する。
 加えて,岡山県並びに被災者の多い岡山市,高梁市,笠岡市及び矢掛町に対しても,災害公営住宅の建設を要望する。

5 被災者に対する住宅支援政策の柔軟化
 現在の被災者に対する公的住宅支援政策は,避難所(又は避難先)から仮設住宅,仮設住宅から災害公営住宅の流れが原則となっている。すなわち,避難所になじめず被災直後から被災した自宅で生活していた場合や,仮設住宅に馴染めず被災したままの自宅に戻った場合など,一度自宅に戻ってしまうと,その後自宅での生活が困難となっても,仮設住宅や災害公営住宅に住むことは原則としてできない。
 そこで,国に対して,一度自宅に戻っても,仮設住宅や災害公営住宅に住むことができるようにするなど,被災者の実態に即した柔軟な住宅支援ができるよう,運用の改善を要望する。
 なお,現状の法制度の中で,岡山県が,倉敷市の要望に基づき倉敷市真備地区の被災世帯につき,真備地区外のみなし仮設住宅から,真備地区にある建設型仮設住宅への転居を認める柔軟な取り扱いを開始したことは,被災者の生活再建に資する画期的かつ重要な支援である。
 そこで,岡山県及び岡山県内の市町村に対しては,上記の事例のように,被災者に対する住宅支援の柔軟な取り扱いをより積極的に行うよう要望する。

以上

2019年(令和元年)9月24日

岡山弁護士会     
会長 小 林 裕 彦

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