(2019.07.16)最低賃金の大幅引上げを求める会長声明
1 中央最低賃金審議会は,本年7月頃,厚生労働大臣に対し,本年度の地域別最低賃金額改定の目安についての答申を行う予定である。例年,各地域の地方最低賃金審議会は,この目安を参考として,地域別最低賃金額を各労働局長へ答申し,その答申を受けて各労働局長が具体的金額を決定する。
昨年,岡山労働局長は,岡山地方最低賃金審議会の答申を受け,地域別最低賃金額を時給807円とする決定を行っている。
しかしながら,以下に述べるとおり,時給807円という水準は,未だ余りに低過ぎるものと言わざるを得ない。
2 最低賃金制度の目的は,賃金の低廉な労働者について,賃金の最低額を保障することにより,労働条件の改善を図り,もって,労働者の生活の安定,労働力の質的向上等を図ることにある(最低賃金法第1条)。
しかし,時給807円という水準では,フルタイム(1日8時間,週40時間,年間52週)で働いても,月収は13万9880円(年収は167万8560円)に留まる。現時点の我が国の社会状況に鑑みた場合,同金額をもってしては,各種の給付の存在を考慮したとしてもなお,一人で生計を維持することは極めて困難と言わざるを得ない。ましてや子どもを生み育てていくことは,およそ不可能である。上記金額では,法の目的を達成するに足りる水準に達しているとは言えない。
3 今日の日本では,非正社員の割合が増加し,現在では役員を除く雇用者全体の約38パーセントに至っている。最低賃金が上記のような金額に留まるのであれば,フルタイムで働いていても安定した生活を送ることができないワーキングプアの問題がより深刻化することは明らかである。ワーキングプアの問題は格差の拡大を加速させ,それと同時に国民の労働意欲を減退させるものである。
このような格差の拡大,国民の労働意欲の低下は,ひいては国民経済の健全な発展を妨げるものであり,国民全体の利益の観点からも解決を急がなくてはならない問題である。
4 時給807円という水準は,先進諸外国の最低賃金と比較しても著しく低い。例えば,オーストラリアの最低賃金は19.49豪ドル(約1478円),フランスの最低賃金は10.03ユーロ(約1225円),ドイツの最低賃金は9.19ユーロ(約1122円),イギリスの最低賃金は8.21ポンド(25歳以上,約1131円)であり,日本円に換算するといずれも1000円を超えている(円換算は2019年6月上旬の為替レートで計算。)。アメリカでも,ワシントン州やカリフォルニア州の一部の市などが15ドルへの引上げを決定したのを始め,全米各地の自治体で最低賃金の大幅引上げが相次いでいる。
5 現在の最低賃金法では地域別最低賃金制度が採用されているため,2018年度(平成30年度)地域別最低賃金では,最も高い東京都では985円,最も低い鹿児島県は761円となっており,224円もの賃金格差が発生している。
岡山県でも,隣接する広島県の最低賃金(844円)とは37円,同じく兵庫県の最低賃金(871円)とは64円もの格差が生じている。1日8時間,1か月22日間働くとすると,1か月分の賃金格差は,広島県との間で6512円,兵庫県との間で1万1264円にもなる。
このような賃金格差は,年々拡大している。2007年度(平成19年度)の最低賃金は,岡山県が658円であったところ,広島県は669円(11円差),兵庫県は697円(39円差)であった。
この事態を放置すれば,今後,さらに賃金格差が拡大し,岡山県外に労働力が流出する事態につながりかねない。労働力を確保し,地域経済を活性化するために,最低賃金の地域間格差の縮小が急務である。
6 政府は,2010年(平成22年)6月18日に閣議決定された「新成長戦略」において,2020年(令和2年)までに全国加重平均1000円にするという目標を定めている。
この政府の目標自体低いと言わざるを得ないが,この政府目標ですら達成困難な状況である。
岡山労働局長は,早急に地域間の最低賃金格差を是正すべく,最低賃金を全国加重平均(2018年度(平成30年度)で874円)の水準に引き上げるべきである。
当会は,2018年(平成30年)7月17日にも最低賃金の大幅引上げを求める会長声明を発出したが,引き続き労働者の生活の安定及び労働力の質的向上を図るため,岡山地方最低賃金審議会に対して,本年度の岡山県における地域別最低賃金額について67円以上の引上げを答申すること,及び岡山労働局長に対して,地域別最低賃金額を本年度より67円以上引上げ時給874円以上に決定することを求める。
2019年(令和元年)7月16日
岡山弁護士会
会長 小 林 裕 彦