(2019.05.20)被災者生活再建支援金支給申請期間延長及び被災者生活再建支援法改正を求める 会長声明
1 岡山県において,被災者生活再建支援法(以下「法」という。)に基づく被災者生活再建支援金(以下「支援金」という。)の支給申請期間の延長(法施行令4条4項)を行うことを要請する。
また,国において,法を以下のとおり改正し,改正法を平成30年7月豪雨による被災の場合にも適用することを要望する。
(1) 半壊家屋,一部損壊家屋も支援対象とすること(法2条2号改正)。
(2) 生業に必要不可欠な事業用資産に被害を受けた場合も支援対象とすること(新設)。
(3) 支援金額を大幅に増額すること(法3条改正)。
(4) 国による支援金の補助の割合を大幅に増加すること(法18条改正)。
なお,2011年(平成23年)7月29日に日本弁護士連合会より本声明と同趣旨の内容を含む「被災者生活再建支援法改正及び運用改善に関する意見書」が出されているが,十分な法改正等がなされているとはいえないため,平成30年7月豪雨災害の被災地弁護士会として本声明を行うものである。
2 支給申請期間の延長
法施行令4条では,基礎支援金の支給申請期間を自然災害が発生した日から13か月(同条1項),加算支援金の支給申請期間を自然災害が発生した日から37か月(同条2項)としている。これにより,平成30年7月豪雨における倉敷市の場合は,基礎支援金については令和元年8月4日,加算支援金については,令和3年8月4日が支給申請期限となる。他方,同条4項において,都道府県による期間延長の余地があることが規定されている。平成23年の東日本大震災や,平成28年の熊本地震においては,同条項に基づき支給金の申請期間が延長されている。
内閣府の資料によれば,平成30年7月豪雨においては,岡山県内で全壊4828棟,半壊3302棟の合計8130棟の被害が生じている(平成31年1月9日現在)。また基礎支援金の申請は,岡山県全体で5782件となっている(平成31年2月28日現在)。
半壊でも解体すれば基礎支援金及び加算支援金を受け取ることができるところ,半壊で解体ではなく,リフォームを決めた世帯も一定数あると思われるが,上記の被災件数と申請件数からすると2000以上の被災世帯が申請をしていない状況である。
岡山県内では,自然災害債務整理ガイドライン手続き中の被災者が148名いること(平成31年4月23日現在),今後の復興計画の実施にも時間かかることなどから,住宅再建の目途が立つまでに相当長期間かかると考えられる上,期限が迫ることによる心理的圧迫は被災者にとって大きな負荷となる。
そこで,岡山県においては,同条4項を積極的に適用して,被災者が十分な支援を受け得るために,柔軟に,かつ,できる限り長期間にわたって支援金の支給申請期間を延長するよう,要望する。
3 被災者生活再建支援法の改正について
(1)半壊家屋,一部損壊家屋への支援対象の拡大
法2条2号は,「全壊」(同号イ),「解体」(同号ロ),「長期避難」(同号ハ),「大規模半壊」(同号ニ)を被災世帯と定め,支援金を支給している。しかし,大規模に至らない半壊や一部損壊であっても,高額な補修費用がかかるのが通常であり,支援対象を大規模半壊以上に限定する合理性は乏しい。「大規模」に至らない半壊世帯や一部損壊世帯であっても,長期間の避難生活を送らざるを得ない点では,全壊世帯,大規模半壊世帯と変わるところがない。また,岡山県内で平成30年7月豪雨によって多数発生した浸水被害においては,浸水深で損壊の程度を判断するので,大規模半壊と半壊や一部損壊とで実際の損壊状況に大差はない。そこで,同号を改正し,半壊世帯や一部損壊世帯も「被災世帯」として支援対象に含めるよう,要望する。
(2)生業に必要不可欠な事業用資産への支援対象の拡大
法2条2号は,支援対象を「住宅」に限っている。したがって,工場,漁船,農地,店舗建物等,個人事業者の生業にとって必要不可欠な資産に被害を受けたとしても,支援対象とはならない。しかし,生業に必要不可欠な事業用資産は,まさに被災者の生活の基盤であり,これらの再建なくして,被災者の生活再建はあり得ない。法が「生活基盤」に被害を受けた被災者の生活再建支援を目的としている(法1条)ことからすれば,住宅に限定する必要はない。そこで,法2条2号の「被災世帯」に「農業,漁業その他の産業又は商業に従事することによって生計を維持しており,当該自然災害によりその生活基盤である主たる事業用資産を喪失し又は著しい被害を受けた世帯」を加え,同条3号として「被災事業用資産」の定義規定を新設し,災害によって生業に必要不可欠な資産に被害を受けた世帯を支援対象に含めるとともに,支援金についても,事業用資産に被害を受けた世帯の状況に応じた支援基準及び支援金額を定めるよう,要望する。
(3)基礎支援金・加算支援金の増額
法3条によれば,支援金の最高額は,基礎支援金と加算支援金を合計して300万円である。しかし,現在の支給額は,家の再建ができる金額ではなく,被災者の生活再建にとって十分な額とはいえない。そこで,支援金の支給額を最低でも500万円以上に増額するよう,要望する。
(4)国による補助の増加
支援金の財源は,都道府県が拠出した基金を活用しつつ(法9条),その2分の1に相当する額は国が補助するものとされている(法18条)。しかし,都道府県による基金の積立てをベースとする仕組みでは,必ずしも盤石の財源を確保できない。東日本大震災では,国の補助割合を8割とする特別立法がなされたが,それ以外の災害では従前のまま,国の補助割合は2分の1にとどまっている。今後も平成30年7月豪雨と同様の水害の発生や南海トラフ地震など大震災の発生が予想されており,他方,被災者の生活再建における法の役割が大きくなってきていることからすれば,端的に,国の責任割合を拡大するのが相当である。そこで,法18条を改正し,国の補助割合を,8割以上とするよう,要望する。
以上
2019年(令和元年)5月20日
岡山弁護士会
会長 小 林 裕 彦