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高齢者の消費者被害の予防と救済のためのネットワークづくりに関する要望書
2016.03.09
平成28年3月9日

岡山県知事 伊原木隆太 殿
岡山県内各市町村長 殿
岡山弁護士会     
会長 吉 岡 康 祐
 
高齢者の消費者被害の予防と救済のためのネットワークづくりに関する要望書
 
 高齢者の消費者被害が増加・深刻化しつつある中,高齢者の消費者被害の予防と救済を効果的に行うために,高齢者の消費者被害に関する見守りネットワークづくりの取組みの必要性が強く認識されるに至っています。高齢者の消費者被害の予防と救済のためには,高齢者の生活に密着したところで活動している人々(地域包括支援センター,社会福祉協議会,介護事業関係者,民生委員,自治会関係者,地域ボランティア等)に被害発見の担い手(見守り者)となってもらい,速やかな消費生活相談につなげていく対応を行える関係を確保することが重要です。また,高齢者及び見守り者に対して,予防のための注意を喚起し,情報を迅速かつ確実に提供し続けていくことも必要です。そして,相談や情報提供に対しては,行政及び民間における消費生活部門と高齢者福祉部門が現場レベルにおいて連携し,その被害の救済や被害の深刻化の予防のために対応していくことが求められています。
 消費者庁も,平成25年,「高齢者の消費者トラブルの防止のための施策の方針」を発表し,その後,「消費者安心戦略」の推進の一環として,消費者被害の早期発見・未然防止につなげていくための見守りネットワークの構築等に関する意見交換を実施する等しています。また,内閣府消費者委員会も,「詐欺的投資勧誘に関する消費者問題についての建議」を取りまとめ,消費者庁に対し,消費者行政部局に加えて,地域包括支援センター,介護支援専門員,民生委員等の高齢者と身近に接する者や,都道府県警察,消費者団体,事業者団体等の多様な主体が,高齢者への注意喚起・見守りを地域において密接に連携して行う体制の普及に努めることを求めています。既に,一部の地方公共団体では,消費者(特に高齢者)の 消費者被害の防止と救済のためのネットワークづくりに先駆的に取り組んでいるところもあり,その活動が高く評価されているところです。
 以上のことを踏まえ,当会は,岡山県内の各市町村及び岡山県に対して,以下のとおり要望いたします。
 
(要望の趣旨)
1 岡山県内の各市町村におかれては,平成28年4月1日に施行される,不当景品類及び不当表示防止法等の一部を改正する等の法律(平成26年法律第71号)において改正された消費者安全法(平成21年法律第50号)(以下「改正法」といいます。)第11条の3第1項に基づき,当該地方公共団体の区域における消費者(特に高齢者)の安全の確保のための取組みを効果的かつ円滑に行うため,関係機関により構成される消費者安全確保地域協議会(以下「地域協議会」といいます。)を組織するよう要望します。
2 岡山県におかれては,県内の各市町村のうち,前記要望の趣旨1記載の地域協議会を設置することが人的資源等の関係から事実上困難な市町村がある場合には,改正法第11条の3第1項に基づき,地域協議会を組織して当該市町村における見守り等の活動を実施し,また,改正法第8条1項に基づき,県内の各市町村が組織した地域協議会についてより実効的な取組みを実現するため,広域的な観点から必要な情報や資料を提供する等,市町村の施策に対する協力・支援等の取組みを行われることを要望します。
 
(要望の理由)
1 高齢化の進行
 我が国における65歳以上の人口は,平成12年10月には2204万人(人口比17.4%)でしたが,平成26年10月には3300万人(同26.0%)と増加しており,今後も高齢化率の上昇傾向は続くものと見込まれています。また,高齢者の単独世帯の比率は,昭和55年の2.5%から平成22年には9.2%へと大きく増加しており,今後も増加傾向が続くものと見込まれています。
 岡山県でも,65歳以上の人口は,平成12年には39万人(人口比20.2%)であったところ,平成26年には53万人(同28.0%)となっています。高齢者のうち,認知症及び認知能力が低下している高齢者も少なからず存在し,平成24年時点で,全国には,65歳以上の認知症の人は462万人,軽度認知障害(MCI)の人が400万人いると推計されるとの調査結果も報告されています。
2 高齢者の消費者トラブル
 このような中,高齢者の消費者トラブルも増加しており,65歳以上の人を当事者とする消費生活相談は,全国において,平成16年に18万件であったものが,平成26年には26万件へ増加しており,人口の伸び以上に増加しています。トラブルの種類としては,詐欺的な手口に関する相談が増加傾向にあり,平成21年度の相談件数が1.4万件であったのに対し,平成26年度は4.4万件となっています。また,相談1件当たりの被害金額は,平均400〜500万円台で推移しており,深刻な状況が続いています。
3 見守りの仕組みづくりの重要性
 高齢者の消費者トラブルは,高齢者の「孤独」,「健康」,「お金」という3つの不安に付け込まれるものが多いとされ,特に,判断能力が低下していたり,社会との接点が希薄化していたりする高齢者の場合には,それゆえにトラブルに巻き込まれ,あるいは,被害の自覚を持てない人も少なくありません。高齢者の場合は,就労による収入の確保が期待できないこともあり,いったん被害を受けると,高齢者の生活の基盤自体が破壊されることになってしまいます。
 このような消費者トラブルを防止し,高齢被害者の救済をするためには,単に相談体制(受動的なもの)の拡充や取締りの強化をするだけでは十分ではありません。基礎的地方公共団体である市町村は,介護保険制度で取り組まれている地域包括ケア実施のために構築されているネットワークや自治会活動等で高齢者の身近で活動している人たちに,継続的なつながりを持った形で,悪質商法やその被害状況等に関する注意喚起・情報提供を行うとともに,見守り活動に向けた研修等を行い,「見守り者」としての協力を得て(「協力機関」,「見守りサポーター」等としての登録を行う等),高齢者に対する注意喚起を分かりやすい形で日常的に行い,そのような活動を通じて高齢者の身近にいる人たちが,被害を早期に発見して(被害等の徴候の「気づき」),これを地域包括支援センター,消費生活センターや警察署に相談・通報し,実効的な解決策を求めて相談したり,関係機関が相互に連携したりして的確に対処できる仕組みづくりをすることにより,このネットワークを実効的に機能させることが不可欠です。
 具体的な取組方法としては,注意喚起のための情報提供については,市町村や消費生活相談センターによる関係者への継続的なメールマガジンの提供(後記「見守り新鮮情報」参照),見守り活動のための研修等では,「見守り者向けハンドブック」,「見守りチェックシート」の提供や,その説明を兼ねた見守り者向けの「出前講座」等があります。また,高齢者への注意喚起の方法としては,高齢者向けの「出前講座」だけではなく,「声かけ活動」等の普及も有効です。相談・通報を行いやすくする取組みとしては,「対応マニュアル」(通報・相談の流れを簡略に説明したもの),「通報・連絡シート」(記入事項を使いやすい形に定型化したもの)等の配布,さらには「見守り者専用相談窓口」の設置等があります。相互の連携を促進する方法としては,相談員等と「見守り者」による「意見交換会」等の開催も有効と思われます。
 全国の地域(地方公共団体)の中には,介護保険制度における地域包括ケアシステム実施のため構築されているネットワークを消費者被害の発見,防止にも活用する等,効果的なネットワークを構築しているところもありますが,未整備の地域が大多数であると思われます。また,既にネットワークを構築している地域(地方公共団体)においても,次々と形を変えて高齢者を狙う詐欺商法に対応すべく,より充実した取組みを行うことが重要となっています。
4 改正法について
⑴ 改正法は,当該地方公共団体の区域における消費者安全の確保のための取組みを効果的かつ円滑に行うため,地方公共団体が地域協議会を組織できること(改正法第11条の3第1項),地域協議会の構成員として,地域の関係機関の他に,「消費生活協力団体または消費生活協力員」を加えることができること(同条2項),地域協議会の構成員との間で特に配慮を要する消費者の見守りのため個人情報の共有ができること(改正法第11条の4第3項)などを規定していますが,これらの規定は,地域における「高齢者見守りネットワーク」を想定したものです。
⑵ 国(消費者庁)は,これまでにも,高齢者の消費者トラブル見守りガイドブックを配布したり,先導的な取組事例を紹介したり,高齢消費者・障害消費者見守りネットワーク連絡協議会を開催し,平成25年4月に「高齢者の消費者トラブルの防止のための施策の方針」としてその施策を取りまとめて公表したりしています。さらに,同年10月には,消費者の安全・安心確保のための「地域体制の在り方」に関する意見交換会を開催して,その成果としての報告書を同年12月に公表しています。
 また,国民生活センターでは,見守り者が活用しやすいイラスト入りのチラシを付した「見守り新鮮情報」というメールマガジンを継続的に発信しています。
 さらに,内閣府消費者委員会も,平成25年8月に,「詐欺的投資勧誘に関する消費者問題についての建議」の中において,高齢者への注意喚起・見守りを地域において密接に連携して行う体制の普及の必要性を力説しています。
 国がこれまでに実施してきた上記諸活動にも一定の効果はあったと思われますが,各地方公共団体の実情に応じた具体的な取組内容については,各自治体の自主的な判断に委ねられていました。
 改正法における地域協議会についての規定は,各地方公共団体の実情に応じたきめ細かな対応を,地域協議会の決定という法的根拠をもって実現できるとしたことに意義があります。
⑶ 高齢者の消費者被害の予防・救済のためのネットワークは,高齢者に身近な地域ごとに形成されることが必要であり,また,地域の実情によってもあり方が異なるため,市町村等の基礎的地方公共団体及びその地域コミュニティーが主体となって実施してゆくべき性格のものです(消費者教育の推進に関する法律第13条,高齢者虐待の防止,高齢者の養護者に対する支援等に関する法律第27条,介護保険法第115条の45第2項2号等参照)。
 もっとも,このような取組みは,個々の基礎的地方公共団体がノウハウもない中で一から作り上げていくには非常に困難が伴い,また,非効率でもあるので,国とともに都道府県がネットワークによる見守り活動の進め方のノウハウを提供する等の支援をすることが必要です。
 「改正消費者安全法の実施に係る地方消費者行政ガイドライン」においても,基本的には住民に最も身近な地方公共団体である市町村が地域協議会を組織するとされていますが,その一方で,都道府県が地域協議会を組織し,人的資源に乏しい小規模市町村において見守り等の活動を実施することも同時に想定されています。
 例えば,東京都は「高齢者の消費者被害防止のための地域におけるしくみづくりガイドライン」を定めて,区市町村に提示し,ネットワーク構築へ向けた働きかけをしていますが,これは,現時点においても,都道府県が広域的な観点からより適切な仕組みづくりをする役割を担っていることの一例です(改正法第8条1項参照)。
5 個人情報について
 実際に消費者被害を防止する取組みをなすにあたっては,見守りを必要とする方の個人情報が記載された「見守りリスト」を作成して,地域協議会の構成員のうち,実際に見守り活動をする者の間で必要な情報を共有することが必要となります。
 見守りリストの作成にあたっては,地方公共団体の長が,消費者庁,他の地方公共団体及び国民生活センターから,当該地方公共団体の住民に関する情報の提供を受けることができるとされており(改正法第11条の2),正確な見守りリストの作成が可能となっています。そして,地域協議会は,見守り等の取組みを行う地域協議会の構成員に対し,消費生活上特に配慮を要する消費者に関する情報の提供等を求めることができるとされています(改正法第11条の4第3項)。この情報提供に際しては,(本人の同意を得ることが望ましいことは言うまでもありませんが)必ずしも本人の同意を得る必要はないとされているため,より迅速かつ実効性のある取組みが可能となっています。
6 実効性のある仕組みづくりについて
 地域協議会の構成員は,消費者安全の確保のため,消費生活上特に配慮を要する消費者と適当な接触を保ち,その状況を見守ることその他の必要な取組みを行うこととされていますが(改正法第11条の4第2項),前述したとおり,その具体的な内容については,各地域協議会の決定に委ねられています。これは,見守りを必要とする者や地域協議会の構成員として実働できる者の数,地理的要因,既に存在するネットワークの有無等,当該地域の実情に応じてきめ細かな対応をするため,地域協議会の決定に広い裁量が認められたものです。
 例えば,高齢者見守りネットワークは,地域包括ケア実施のための地域包括支援センターを中心としたネットワークを利用して,地域包括支援センター及び社会福祉地域協議会の他に,ケアマネジャー・ホームヘルパーや訪問看護等を行う介護事業者,民生委員,自治会関係者,地域ボランティアの積極的な参加によって,実効性のあるものとすることができるものと考えられます。
 また,ネットワークづくりには,行政における消費生活部門(担当部局と消費生活センター)と高齢者福祉部門(担当部局と地域包括支援センター等)の連携が極めて重要な意味を持つため,様々な工夫が必要です。地域包括支援センターや社会福祉協議会等と消費生活センターの協働関係を日常的に確保していくことが,ネットワークの実効性を確保することにおいて重要です。例えば,前述したとおり,介護保険制度では,地域包括ケア実施のための地域包括支援センターを中心としたネットワークを構築することが提唱され,既に地方公共団体でその整備がされているところから,このネットワークの中に,消費者トラブルも取り込んで対応することが第一に検討されるべきです。
 なお,組織の代表又は担当者の年1,2回程度の会議だけでは,被害の予防・救済のネットワークとは言えません。前記要望の理由3において指摘した具体的な方策についても,あくまでもネットワークの実効性を確保するための手段の一例であり,これらを形式的に実施すれば足りるというものではなく,その地域の実情に即した他の方策も検討して実行されるべきです。何よりも重要なことは,個々の高齢者に接している人が,高齢者の尊厳を支え,プライバシーを確保しつつ,消費者相談の担当者と円滑に連絡し合える関係を確保することです。その観点から,地域包括ケア実施のため,前記の地域包括支援センターを中心としたネットワークをさらに発展させたものとして,現在,各地域において急ピッチで整備が進められている「地域ケア会議」を活用し,その主要なテーマとして位置付けること等も検討されるべきであると考えます。
 今般の「高齢者の消費者被害に関する見守りネットワーク」は,高齢消費者被害防止の観点から,改正法に基づく地域協議会の決定に基づいて構成員が実施するものの一例として,現に存在する高齢者福祉分野の地域包括ケアシステムにおける見守り活動を軸にして,行政における消費生活部門と高齢者福祉部門が連携・協働する地域のネットワークづくりを提唱するものです。かかるネットワークの構築は,今後,消費者教育の分野でも推進されようとしている地域におけるネットワークづくりの一部分(高齢者部門)としての意義を有するものと考えます。
7 おわりに
 岡山県内の各市町村及び岡山県におかれましては,各地方公共団体における施策において,本要望書の趣旨を反映していただくよう要望します。
 当会におきましても,地域協議会への構成員としての参加,地域協議会が決定する高齢者の消費者被害の予防と救済のための見守りネットワークづくりへの参加・協力,見守り活動のための研修への講師派遣等のネットワーク活動への参加,さらには,高齢者向けの相談体制の整備への助言等,可能な限りのあらゆる支援・協力を行う所存です。
以上
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