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ハンセン病を理由とした最高裁判所の「特別法廷」指定に関する会長声明
2016.03.09
ハンセン病を理由とした最高裁判所の「特別法廷」指定に関する会長声明
 
1 いわゆる「特別法廷」の指定
 1948(昭和23)年から1972(昭和47)年までの間に、隔離施設であるハンセン病療養所や拘禁施設である医療刑務支所・拘置所などに、ハンセン病患者に対する特殊の法廷(以下「特別法廷」という。)が設けられ、多数の裁判が実施された。
 これは、法廷は裁判所又は支部で開廷するとの原則に対する例外として、最高裁判所の指定に基づき実施されたものである(裁判所法第69条2項)。
2 最高裁判所による調査の実施
 1950年代に起きた菊池事件(ハンセン病とされる男性が殺人罪などに問われ、無実を訴えながら死刑が確定し、執行された事件)の裁判の再審を求める動きの中で、2013(平成25)年11月、全国ハンセン病療養所入所者協議会などが最高裁判所に対し、特別法廷の正当性について検証するよう申し入れたことを契機として、2014(平成26)年5月、最高裁判所は、「ハンセン病を理由とする開廷場所指定に関する調査委員会」(以下「調査委員会」という。)を設置し、資料の収集や関係者に対するヒアリングなどの調査を始めた。また、最高裁判所は、2015(平成27)年7月、調査委員会が行っている調査について、有識者の意見を参考とするため、「ハンセン病を理由とする開廷場所指定の調査に関する有識者委員会」を開催することとし、同年9月以降、検証が進められている。今後、同有識者委員会からの指摘を待って、調査委員会の調査の公表がなされる予定である。
3 特別法廷の実施状況
 調査委員会の調査で、すでに判明している資料によると、1948(昭和23)年から1972(昭和47)年までの間に、ハンセン病を理由とする特別法廷の上申は96件であり、そのうち95件が認可され(刑事事件94件、民事事件1件)、1件が撤回され、却下事例がなかった(認可率99%)。
 これに対し、1948(昭和23)年から1990(平成2)年までの間の、ハンセン病以外の病気及び老衰を理由とする開廷場所指定の上申は61件であり、そのうち9件が認可され、25件が撤回され、27件が却下された(認可率15%)。
 これらの統計からすれば、最高裁判所は、特別法廷の指定について、事件ごとに個別具体的な判断をすることなく、被告人がいわゆる「ハンセン病患者」であるという一事をもって、判断していたと推察される。
4 憲法上の問題点
 最高裁判所による特別法廷の指定行為は、以下のとおり、憲法に違反する。
 そもそも、憲法は、裁判の公正を確保する趣旨から、「裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行う」と規定し(第82条1項)、とりわけ刑事被告人に対しては、重ねて「すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する」と規定し、公開裁判を受ける権利を保障している(第37条1項)。
 ここに「公開」とは、訴訟関係人に審理に立ち会う権利と機会を与えるといういわゆる当事者公開をいうのではなく、国民に公開されるという一般公開、具体的には国民一般の傍聴を許すこと(傍聴の自由)を意味する。
 特別法廷は、いずれも「らい予防法」施行下における隔離施設としてのハンセン病療養所、拘禁施設としての医療刑務支所・拘置所などで開廷されたものであって、いずれも一般人が立ち入ることのできない場所で実施されたものであるから、その「対審及び判決」には、国民一般の傍聴の自由が確保されていたとは認められず、憲法第37条1項、第82条1項に違反する。
 更に、上記菊池事件の特別法廷においては、法曹三者がいずれも予防衣と呼ばれる白衣を着用し、長靴を履き、記録や証拠物等をゴム手袋をしたうえで火箸等で扱っていたことが判明している。
 こうしたハンセン病患者に対する差別・偏見に満ちた取扱いは、到底、公平な裁判所による裁判が確保されていたとはいえず、憲法第37条1項に違反する。
5 更なる名誉回復に向けて
 以上のとおり、最高裁判所による特別法廷の指定行為は、憲法に違反するものであったと評価せざるを得ない。
 基本的人権の擁護と社会正義の実現をその使命とする我々弁護士としても、そのような憲法に違反する最高裁判所の指定行為に対して、何らの異論を挟むことなく黙認してきた責任を改めて自覚する必要がある。特に、県内に長島愛生園と邑久光明園というハンセン病療養所が設けられている岡山県で活動している当会及び当会所属の弁護士において、その責任はなおさらである。
 当会は、特別法廷の問題につき、弁護士の立場からその実施や実施方法に何ら異論を挟むことなく黙認してきたことにつき、痛切に反省の意を表明する。
 そのうえで、当会は、最高裁判所に対し、特別法廷の実態が明らかになるよう事実関係を詳細に公表し、特別法廷の指定行為が憲法に違反するものであることを真摯に受け止め、ハンセン病問題によって被害に遭われた方々の更なる名誉回復に努めることを求める。
 
2016(平成28)年3月9日
 岡山弁護士会     
会長 吉 岡 康 祐
 
 
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