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特定商取引法に事前拒否者への勧誘禁止制度の導入を求める意見書
2015.07.08
特定商取引法に事前拒否者への勧誘禁止制度の導入を求める意見書
 
2015(平成27)年7月8日
 
岡山弁護士会     
会長 吉 岡 康 祐
 
第1 意見の趣旨
 1 特定商取引法に、電話勧誘販売に関してはいわゆる「Do-Not-Call制度」(電話勧誘を受けたくない消費者が予め電話番号の登録を行い、登録者への電話勧誘を法的に禁止する制度。以下「DNC」という。)を、訪問販売に関してはいわゆる「Do-Not-Knock制度」(以下「DNK」という。)、すなわち、お断りステッカーによる事前拒否に法的根拠を認める制度(以下「ステッカー制度」という。)又は訪問勧誘を受けたくない消費者が予め住所等の登録を行い、登録者への訪問勧誘を法的に禁止する制度(以下「レジストリ制度」といい、DNC及びDNK(ステッカー制度又はレジストリ制度)を総称して「事前拒否者への勧誘禁止制度」という。)の導入を求める。
   その際、DNCやDNKのレジストリ制度は、以下の制度設計とすべきである。
   (1) 事業者による登録者の確認方法については、事業者が電話番号等のリストを登録機関に開示し、登録機関がそこに登録者の情報があるかを確認する、いわゆるリスト洗浄方式によるものとする。
   (2) 登録機関は国とする。
   (3) 消費者による登録は無償とし、事業者による登録者の確認は有償とする。
 2 また、事前拒否者への勧誘禁止制度については適用除外を認めず、全ての訪問販売、電話勧誘販売に適用すべきである。
 
第2 意見の理由
 1 はじめに
   全国消費生活情報ネットワークシステム(PIO-NET)に登録された相談件数は、訪問販売全体では近年減少傾向にあるが、家庭訪販や電話勧誘販売については増加傾向にある(内閣府消費者委員会特定商取引法専門調査会(第4回)における消費者庁からの配布資料「訪問販売・電話勧誘販売等の勧誘に関する問題についての検討」)。
   このように、従来から社会問題ともなっている訪問や電話による不意打ち的な販売行為による消費者被害は、後を絶たない状況にある。
   また、近時の調査によれば、消費者の約96%が、訪問勧誘、電話勧誘を「全く受けたくない」と回答している状況にある(消費者庁平成27年5月「消費者の訪問勧誘・電話勧誘・FAX勧誘に関する意識調査」)。
   このような状況の中、内閣府消費者委員会特定商取引法専門調査会において、事前拒否者への勧誘禁止制度を特定商取引法に導入すべきか否かについて、本年8月の取りまとめに向けて急ピッチで議論が進められている。
   本意見書は、事前拒否者への勧誘禁止制度を導入すべきことについて、当会の意見を表明するとともに、DNCやDNKのレジストリ制度の具体的なあるべき制度設計を示すものである。
 2 事前拒否者への勧誘は私生活の平穏や自己決定権等を侵害するものであること
  (1) 刑法130条前段は、正当な理由のない住居やその敷地への立ち入りを禁じているが、その保護法益は管理権者の管理権ないしは私生活の平穏と解されており(なお、平成20年4月11日最高裁第二小法廷判決及び平成21年11月30日最高裁第二小法廷判決はいずれも、他人の敷地への侵入行為が管理者の管理権侵害のみならず、そこで私的生活を営む者の私生活の平穏を侵害すると判示している。)、住居等の管理権や私生活の平穏を求める権利が法的に認められることは明らかであるところ、事前拒否者への勧誘活動は、管理者の管理権ないしは私生活の平穏を侵害する行為に他ならない。
  (2) また、消費者基本計画(平成27年3月24日閣議決定)においても、「消費者政策の推進により目指すべき姿」の項目の中で、「勧誘を受けるかどうか、消費行動を行うかどうか、どの商品・サービスを消費するかについては、消費者の自己決定権の下に位置付けられるものと考えられる。」と述べられているように、消費者の自己決定権の観点からも事前拒否者への勧誘活動は許容されないものと考えられる。
 3 事前拒否者への勧誘禁止制度は事業者の営業の自由を侵害するものではないこと
   他方、事業者にも経済的自由権の一つとして営業の自由が保障されてはいるが、その権利は絶対的なものではない。この点、上記2つの最高裁判決は、政治的表現の自由すら管理者の管理権や私生活の平穏を求める権利との関係で制約を受けるとするものであり、営業の自由の価値が政治的表現の自由の価値に劣後すると一般に理解されていることからすれば、管理者の管理権や私生活の平穏を害する方法での営業活動(事前拒否者への勧誘活動はまさにこれに該当する。)が制約を受けることは当然である。
   そして、事前拒否者への勧誘禁止制度は、営業活動についての時・場所・方法への規制に過ぎず、他の手段による営業活動(勧誘を拒絶していない者に対する勧誘、訪問・電話以外の方法による勧誘)は許容されていることや、電子メール広告ですら事前の同意がある場合のみ送信できるというオプトイン方式が採用されている(特定商取引法12条の3、同36条の3、同54条の3、特定電子メールの送信の適正化等に関する法律3条)ことからしても、管理者の管理権や私生活の平穏を求める権利を保護するための最低限の規制といってよい。
   以上からすれば、事前拒否者への勧誘禁止制度は事業者の営業の自由を侵害するものとはいえない。
 4 事前拒否者への勧誘禁止制度は既に多くの諸外国で導入されていること
   電話勧誘への規制について、ヨーロッパでは、EU指令において、EU加盟各国に対し、不招請勧誘目的の通信について、オプトイン規制(不招請勧誘を原則として禁止し、例外的に勧誘に同意した者に対してのみ勧誘が許される制度)又はオプトアウト規制(勧誘を拒否した者に対する勧誘を禁止する制度)のいずれかの措置を講じることを義務付けている。また、南北アメリカ、アジア、オセアニアの各地域でも、アメリカやオーストラリア、韓国など9カ国がDNC制度を導入している。
   訪問勧誘への規制については、オーストラリアとルクセンブルクで、法律による国レベルでの対応が行われている。
   このように、事前拒否者への勧誘禁止制度は、諸外国でも導入が進められている状況にある。
 5 事前拒否者への勧誘禁止制度導入に対する批判とそれに対する反論
 (1)事前拒否者への勧誘禁止制度導入については、以下のような批判がなされている。
   1 これらの制度を導入した場合、訪問販売事業者・電話勧誘販売事業者の業績の悪化が余儀なくされる。
   2 訪問販売員や電話勧誘販売員は女性や高齢者の雇用の受け皿になっており、これらの制度の導入は、その者らの雇用を喪失させることにつながる。
   3 これらの制度の導入は、消費者の商品選択の機会を減らし、利益を損なう。
   4 これらの制度の導入により、地域社会による高齢者等を見守る機能が失われる。 
   5 特定商取引法の適用が除外されている取引のトラブルも存在するにもかかわらず、同法が適用される取引のみ規制することは不公平である。
 (2)しかし、このような批判は、以下に述べるとおり、事前拒否者への勧誘禁止制度導入を否定する根拠とはなり得ない。
   ア まず、事前拒否者への勧誘禁止制度は、いわゆる不招請勧誘を全面的に禁止するものではなく、予め拒否の意思を示した消費者への勧誘を禁止する制度に過ぎない。そして、既に事前拒否者への勧誘禁止制度を導入している諸外国や、お断りステッカー制度を導入している日本の自治体において、登録者の割合は必ずしも高くない。例えば、訪問販売について、お断りステッカー制度を導入している日本の自治体では、ステッカーを利用する消費者の数は約15%と指摘されている。また、電話勧誘販売について、DNCの登録者数は、最も割合の高いアメリカで2億1785万5659件(2014年9月30日時点。2010年4月時点の同国の人口は約3億875万人。)、最も割合の低い韓国で約10万件(2014年12月17日時点。2013年現在の同国の人口は約5000万人。)と指摘されている(以上につき、内閣府消費者委員会特定商取引法専門調査会(第6回)における消費者庁からの配布資料「訪問販売・電話勧誘販売等の勧誘に関する問題についての検討(2)」)。)。
     他方、事業者にとっても、事前拒否者への勧誘禁止制度の導入は、勧誘を拒否する意思を示している消費者が予め把握できるため、勧誘を事前に拒否していない見込み客のみをターゲットとして、むしろ人的にも時間的にも効率的な営業活動を行うことができるという利点も存在する。
     よって、1,2の批判に関していえば、事業者の業績や雇用環境に与える影響は、仮にあるとしても限定的であり、消費者の私生活の平穏や自己決定権に対する侵害を正当化できるだけの根拠とはなり得ない。また、前述のとおり、消費者の約96%が訪問勧誘、電話勧誘を「全く受けたくない」と考えている現状に鑑みると、事業者の業績や雇用環境に影響が出るほど事前拒否者の数が多くなるのであれば、もはや消費者の大部分が望まない訪問勧誘、電話勧誘という商習慣自体が見直されるべき時期に来ていると言うほかなく、事業者としては勧誘に頼らない営業活動への転換を図るべきである。
   イ また、3の批判については、インターネットの発達などにより、商品選択に関する情報を入手する機会や手段が以前と比べて飛躍的に増加している現状からすれば、やはり消費者の私生活の平穏や自己決定権に対する侵害を正当化できるだけの根拠とはなり得ないし、自らの意思で訪問勧誘や電話勧誘の方法による商品選択の機会を放棄する者がその機会を喪失する不利益についてまで、法が後見的に配慮する必要はない。
   ウ さらに、4の批判については、そもそも、地域社会による高齢者等を見守るネットワークの担い手として想定されている事業者は、水道・電気・ガスの検針員や既存の契約に基づく郵便等の物品の配達員といった、住民のことを既に知っており、継続的に接触する機会がある者であって、訪問販売において新規契約の勧誘を行う営業担当者は、見守りネットワークの担い手として適格ではないし、そのような役割を期待されてもいない。
     また、前述のとおり、消費者の約96%が訪問勧誘、電話勧誘を「全く受けたくない」と考えているという調査結果からすれば、勧誘にあいたくないと考える多数の消費者が、訪問や電話による接触を受けた場合に、電話に出なかったり、居留守を使ったりしているものと推察され、むしろ訪問勧誘、電話勧誘を放任していること自体が高齢者等の見守り活動を阻害する要因となっているともいえる。よって、地域社会による高齢者等を見守る機能を全うさせるためには、高齢者等が安心して訪問や電話を受けられるようにするため、むしろ事前拒否者への勧誘禁止制度を積極的に導入するべきである。
   エ なお、5の批判はもっともな面があり、特定の事業者の営業活動のみに事前拒否者への勧誘禁止制度を導入することは不公平であるし、また、同制度は消費者の管理権や私生活の平穏を求める権利を保護するためのものであるところ、事前拒否者への勧誘が私生活の平穏等を害する点は、営業内容いかんにより異なるものではない。
     よって、5の批判については、事前拒否者への勧誘禁止制度導入を否定するのではなく、同制度について適用除外を認めず、全ての訪問販売、電話勧誘販売に適用する方向で対応すべきである。
 (3)以上のとおり、上記各批判はいずれも事前拒否者への勧誘禁止制度導入を否定する根拠とはなり得ない。
 6 DNC、DNKのレジストリ制度の具体的制度設計について
 (1)事業者による登録者の確認方法については、登録者の情報を登録機関から事業者に提供して、事業者が自らそれを確認する方法(勧誘拒絶リスト取得方式。アメリカ、イギリス、カナダ等で採用。)と、事業者が保有している電話番号等のリストを登録機関に開示し、登録機関が開示されたリスト内における登録者情報の有無を確認する方法(リスト洗浄方式。オーストラリア、シンガポール、韓国等で採用。)があるが、勧誘拒絶リスト取得方式の場合、事業者が保有・把握していない登録者の情報を知ることができるため、悪質な事業者による勧誘が増加したり、リスト自体が転売されたりする可能性が否定できない。他方、リスト洗浄方式の場合、既に事業者が保有している電話番号等を超える情報を入手することはできないため、勧誘拒絶リスト取得方式のような危険性が低い。
    よって、リスト洗浄方式が採用されるべきである。
 (2)登録機関については、個人情報の厳格な管理の必要性等の観点から国(所管は消費者庁とし、適当と判断される第三者への委託は否定しない。)とすべきである。
 (3)費用負担については、管理権や私生活の平穏は消費者にとって基本的な権利であるから、それを守るための消費者の登録は無償とすべきである(前述のEU指令でも、加盟各国がオプトインないしオプトアウト規制を講じる際は、消費者にとって無償でなければならない旨規定されている。)。
    他方、事業者による登録の確認は、それにより無駄な勧誘活動を避けることができ、効率的な営業活動を行うことができるという利点がある上、無償とすると事業者による濫用的な確認を誘発する恐れもあることから有償とすべきである(DNCを採用する諸外国においても、事業者による登録の確認は有償とする例が多い。)。
 7 おわりに
   事前拒否者への勧誘禁止制度は、消費者から承諾を得た勧誘や、勧誘を拒絶していない者に対する勧誘までを否定するものではなく、事前に勧誘を拒絶した者に対する勧誘のみを禁止する制度に過ぎない。また、当然のことながら、消費者と既に締結した契約上の債務を履行するために消費者を訪問することを禁止するものでもない。
   そもそも現在でも、訪問勧誘、電話勧誘を受けた消費者が、勧誘を拒否する意思を表示した場合に、事業者がそれ以上の勧誘を行うことは禁止されているのであり、事前拒否者への勧誘禁止制度は、これを事前に拒否する意思を登録した場合にまで広げるにすぎないものであり、事業者側にとって、勧誘して拒否された場合と、元々拒否されている場合とを区別する必要性がそれほど高いとは考えられない。
   そして、勧誘を拒絶する者に対して勧誘すべきでないことは、私生活の平穏などといった概念を持ち出すまでもなく、商道徳上も至極当然のことであるといえる。
   他方、消費者の私生活の平穏を守り、消費者被害を防止する必要性は高い。
   以上の見地から、意見の趣旨記載の対応を強く求める次第である。
以上
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