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裁判員制度施行3年目を迎えて  岡山弁護士会の提言
2013.03.11

                    裁判員制度施行3年目を迎えて
                          岡山弁護士会の提言


第一,はじめに
 岡山弁護士会では,裁判員制度の施行にあたり「裁判員制度に対する提言」(平成20年9月10日)を発表し,その後も,中国地方弁護士会連合会に「証拠全面開示を求める決議」(平成22年10月),「裁判員裁判における死刑求刑事案に関する運用改善及び法改正を求める決議」(平成23年10月)を提案するなど,これまで裁判員制度の改革に向けて様々な積極的な提案を行ってきた。
 今年は裁判員制度施行3年目にあたる節目の年である。裁判員法附則9条には3年後の見直し規定も設けられている。この間,最高裁も,毎月「裁判員裁判の実施状況について」との司法統計を発表している。
 このような状況の下,岡山弁護士会では,本年8月にこれまで裁判員裁判を経験した岡山弁護士会の弁護士全員(計70名)を対象とするアンケートを実施し,その結果,39名から回答を得た。
 今回は,この岡山弁護士会でのアンケート結果も踏まえ,次の3点につき,あらためて3年後の見直しを迎えた現時点の岡山弁護士会としての提言を行いたい。
 第1に,対象事件の見直し,被告人の選択権の導入の法改正である。
 第2に,これは現行法の運用改善であるが,区分審理・例外的合議体の積極的活用である。
 第3に,裁判員裁判の長期化の改善,特に公判前整理の長期化に対する対策として,証拠の全面開示の法改正,裁判官・検察官の大幅増員,弁護人の複数選任の義務化である。
 以下,上記3点の見直しを求める理由について,全国の裁判員裁判の司法統計の分析,岡山弁護士会でのアンケート結果の分析を前提に,詳述する。
 

第二,全国の裁判員裁判について(司法統計の示すもの)
 1,審理期間・公判前整理手続期間
 (1)まず,裁判員制度施行前の状況を見てみると,平成18年から平成20年までに終局した公判前整理手続に付された通常第一審事件のうち裁判員裁判対象罪名の事件(以下「裁判官裁判」という。)の平均審理期間及び平均公判前整理手続期間は,【図表1】のとおりである。
    これによれば,全事件の平均審理期間は6.6月(うち自白事件が5.3月,否認事件が8.3月)となっている。また,全事件の平均公判前整理手続期間は2.9月(うち自白事件が2.4月,否認事件が3.7月)であり,公判前整理手続以外に要した期間の平均は3.7月(うち自白事件は2.9月,否認事件は4.6月)である。
 (2)他方,裁判員制度施行から平成24年7月末までに終局した裁判員裁判の平均審理期間及び平均公判前整理手続期間は,【図表2】のとおりである。
    これによれば,全事件の平均審理期間は8.5月(うち自白事件が7.2月,否認事件が10.5月)となっている。また,全事件の平均公判前整理手続期間は6.0月(うち自白事件が4.7月,否認事件が7.8月)であり,公判前整理手続以外に要した期間の平均は2.5月(うち自白事件が2.5月,否認事件が2.7月)である。
 (3)以上をまとめると,裁判員裁判の審理期間のうち,公判前整理手続以外に要した期間は裁判官裁判よりも短くなっているものの,公判前整理手続期間は裁判官裁判に比べて大幅に長期化していることがわかる。その結果,全体の審理期間も裁判官裁判に比べて2か月ほど長くなってしまっている。
 (4)また,裁判員裁判の平均審理期間及び平均公判前整理手続期間に係る年ごとの統計結果は,【図表3】ないし【図表5】のとおりである。
    これによれば,平成21年に終局した裁判員裁判の全事件の平均審理期間は5.0月(うち自白事件が4.8月,否認事件が5.6月),平均公判前整理手続期間は2.8月(うち自白事件が2.8月,否認事件が3.1月),公判前整理手続以外に要した期間の平均は2.2月(うち自白事件が2.0月,否認事件が2.5月)となっているが,平成22年に終局した裁判員裁判の全事件の平均審理期間は8.3月(うち自白事件が7.4月,否認事件が9.8月),平均公判前整理手続期間は5.5月(うち自白事件が4.8月,否認事件が6.8月),公判前整理手続以外に要した期間の平均は2.8月(うち自白事件が2.6月,否認事件が3.0月)となっており,いずれの期間も前年に比べて長くなっているが,特に公判前整理手続期間が大幅に長期化している。
 (5)さらに,平成23年に終局した裁判員裁判の全事件の平均審理期間は8.9月(うち自白事件が7.3月,否認事件が10.9月),平均公判前整理手続期間は6.4月(うち自白事件が5.0月,否認事件が8.3月),公判前整理手続以外に要した期間の平均は2.5月(うち自白事件は2.3月,否認事件は2.6月)となっており,公判前整理手続以外に要した期間の平均は前年に比べて若干短くなったものの,公判前整理手続期間の長期化傾向はより顕著になっている。
 (6)なお,平成22年及び平成23年に比して,平成21年に終局した裁判員裁判の審理時間や公判前整理手続期間が非常に短くなっている点に関しては,平成21年末の時点では,裁判員制度施行からわずか7か月しか経過しておらず,いまだ多くの事件が終局していなかったこと(平成21年の判決人員数は僅か142人にとどまっている。)が影響しているものと思われる。
 2,合議体の構成
   裁判員制度施行から平成23年12月末までに終局した裁判員裁判の合議体の構成を見てみると,全ての事件が裁判官3人,裁判員6人の構成をとっており,裁判員法2条1項,2項に定める例外的合議体(裁判官1人,裁判員4人の構成)をとった事件は1件も存在しなかった。
 3,区分審理
   裁判員制度施行から平成23年12月末までに終局した裁判員裁判(事件総数3173件)のうち,裁判員法71条の区分審理による審理がなされた事件は,27件(うち平成21年が0件,平成22年が7件,平成23年が20件)であった。
 

第三,岡山弁護士会のアンケート結果について
第1,アンケート結果の概要
 1,起訴から第一審判決までの期間について
 (1) 公訴事実に争いがない事件
    アンケート結果によれば,
    「長期化したと思う」と答えた人が33人(約85%)
    「長期化したと思わない」と答えた人が6人(約15%)
   であった。
    長期化した原因については,((1))公判前整理手続に要する期間が長い,((2))裁判員の選任に要する期間が長い,などが指摘されている。なお,((1))の原因については,検察官による証拠開示が遅い,余罪及び共犯の捜査・追起訴に要する期間が長い,などが指摘されている。
 (2)公訴事実に争いがある事件
        アンケート結果によれば,
        「長期化したと思う」と答えが人が12人(約67%)
        「長期化したと思わない」と答えた人が6人(約33%)
      であった。
       長期化した原因については,主として,公判前整理手続に要する期間が長いことが指摘されている。
 2,保釈請求が許可されやすくなったかについて
      アンケート結果によれば,
      「そう思う」と答えた人が2人(約8%)
      「そう思わない」と答えた人が24人(約92%)
    であった。
 3,公判前整理手続において迅速かつ充実した争点整理ができているかについて
      アンケート結果によれば,
      「できていると思う」と答えた人が13人(約36%)
      「できていないと思う」と答えた人が23人(約64%)
    であった。
      その原因については,((1))迅速性のみを優先して,充実した争点整理がなされていない,((2))裁判員にとってわかりやすい裁判を重視するあまり,過度な争点整理,主張・証拠の制限がなされている,((3))検察官による証拠開示の時期が遅い,などが指摘されている。
 4,例外的合議体(裁判官1人及び裁判員4人)による審理及び裁判や「区分審理(併合事件のうち一部の事件を区分し,順次,区分した事件ごとに審理を担当する裁判員を選定して審理し,事実認定に関して部分判決を行い,これを踏まえて,新たに選任された裁判員の加わった合議体が残りの事件を審理した上,併合した事件全体について刑の言い渡しを含めた終局判決を行うこと)」の活用について
      アンケート結果によれば,
      「活用できていないと思う」と答えた人が12人(約57%)
      「活用できていないとは思わない」と答えた人が9人(約43%)
    であった。
      活用できていない原因については,((1))裁判所が活用に消極的である,((2))裁判官・検察官の人数不足,などが指摘されている。
 5,被害者参加(被害者の意見陳述など)が裁判員の判断(事実認定)に予断や偏見を与えるかについて
      アンケート結果によれば,
      「そう思う」と答えた人が30人(約86%)
      「そう思わない」と答えた人が5人(約14%)
    であった。
 6,弁護人の負担について
      アンケート結果によれば,
      「負担が増大したとは思わない」と答えた人が5人(約13%)
      「負担が増大したと思う」と答えた人が34人(約87%)
    であった。
      弁護人の負担の解消方法については,((1))早期かつ全面的な証拠開示の実現,((2))起訴から第一審判決までの期間の短縮(未決勾留期間の長期化の改善),((3))弁護人の人数を増やす(原則3人など),などが指摘されている。
 7,裁判員裁判対象事件の見直しについて
 (1)「公訴事実に争いがない事件」を除外すべきか
        アンケート結果によれば,
        「除外すべきと思う」と答えた人が17人(約47%)
        「除外すべきだと思わない」と答えた人が19人(約53%)
      であった。
        「除外すべきと思う」理由については,((1))「公訴事実に争いがない事件」の裁判員裁判が長期化している,((2))裁判員が量刑判断に関与することに疑問がある,などが指摘されている。
        他方で,「除外すべきと思わない」理由については,主として,裁判に市民感覚を反映させるため,裁判員が量刑判断に関与すべきであることが指摘されている。
 (2)「性犯罪(強姦致傷など)」を除外すべきか
        アンケート結果によれば
        「除外すべきだと思う」と答えた人が16人(約46%)
        「除外すべきだと思わない」と答えた人が19人(約54%)
      であった。
        「除外すべきだと思う」理由については,((1))被害者のプライバシーなどの保護,((2))被害者の峻烈な処罰感情の影響が大きく,量刑が重くなりすぎる,などが指摘されている。
        他方で,「除外すべきだと思わない」理由については,((1))性犯罪は重大犯罪である,((2))市民感覚が反映された適正な量刑がなされている,などが指摘されている。
 (3)ア 現在の裁判員裁判対象事件以外の事件のうち,「公訴事実に争いがある事件」を裁判員裁判対象事件に含めるべきか
          アンケート結果によれば,
          「含めるべきだと思わない」と答えた人が11人(約30%)
          「含めるべきだと思う」と答えた人が26人(約70%)
        であった。
          「含めるべきだと思わない」理由については,国民の負担が増大することなどが指摘されている。
          他方で,「含めるべきだと思う」理由については,裁判員裁判対象事件以外にも事実認定の判断に市民感覚を反映すべきであることなどが指摘されている。
        イ 「含めるべきだと思う」場合,被告人に裁判員裁判を選択する権利を付与するべきか
          アンケート結果によれば,
          「選択権を付与するべきだと思う」と答えた人が22人(約81%)
          「選択権を付与するべきだとは思わない」と答えた人が5人(約19%)
        であった。
          「選択権を付与するべきだと思う」理由については,被告人の意思を尊重すべきであることなどが指摘されている。
          他方で,「選択権を付与するべきだと思わない」理由については,裁判員裁判の制度趣旨から一律に行うべきであることなどが指摘されている。
第2,アンケート結果の分析
  1,被告人の未決勾留期間の長期化
   前記第1の1及び前記第1の2のアンケート結果によれば,裁判員裁判における起訴から第一審判決までの期間が,従来の裁判に比べて,長期化している一方で,必ずしも保釈請求が許可されやすくなっていないことから,被告人の未決勾留期間が長期化しているといえる。特に,それは,「公訴事実に争いがない事件」について顕著だといえる。
      なお,前記第1の1のアンケート結果によれば,裁判員裁判における起訴から第一審までの期間が長期化している原因の一つとして,公判前整理手続に要する期間が長いことが指摘されている。これには,検察官による証拠開示が遅いことや余罪及び共犯の捜査・追起訴に要する期間が長いことなどが関係しているといえる。
 2,充実した争点整理がなされていない
   前記第1の3のアンケート結果によれば,公判前整理手続きに要する期間が長い割に,半数を超える人が,公判前整理手続において迅速かつ充実した争点整理がなされていないと回答している。
      この原因としては,((1))迅速性のみを優先して,充実した争点整理がなされていないこと,((2))裁判員にとってわかりやすい裁判を重視するあまり,過度な争点整理,主張・証拠の制限がなされていること,((3))検察官による証拠開示の時期が遅いことが指摘されている。
 3,弁護人の負担が増大している
   前記第1の6のアンケート結果によれば,約9割の人が,弁護人の負担が増大したと回答している。
   上記2でも記載したとおり,公判前整理手続では,((3))検察官による証拠開示の時期が遅く,弁護人には必ずしも十分な主張・証拠整理を検討する時間が与えられないまま,((1))迅速性を優先する運用がなされており,弁護人の負担が増大しているものといえる。
 4,例外的合議体による審理や区分審理が活用されていない
      前記第1の4のアンケート結果によれば,約6割の人が,例外的合議体による審理や区分審理が活用されていないと回答している。
 5,裁判員裁判対象事件の見直しの必要がある
 (1)前記第1の7(1)のアンケート結果によれば,「公訴事実に争いがない事件」について,半数の人が,裁判員裁判対象事件から除外すべきであると回答している。被告人の未決勾留期間の長期化の状況下において,「公訴事実に争いがない事件」,すなわち量刑判断のみが問題となる事件について,裁判員裁判対象事件として維持するか否かについて,裁判員が量刑判断に参加することの当否を含めて,改めて検討する必要があるといえる。
 (2)前記第1の7(2)のアンケート結果によれば,「性犯罪(強姦致傷など)」について,半数の人が,裁判員裁判対象事件から除外すべきであると回答している。前記第1の5のアンケート結果によれば,約9割の人が,被害者参加(被害者の意見陳述など)が裁判員に予断や偏見を与えていると回答していることを踏まえると,特に被害者の処罰感情が峻烈な「性犯罪(強姦致傷など)」について,裁判員裁判対象事件として維持するか否かについて,改めて検討する必要があるといえる。
 (3)前記第1の7(3)のアンケート結果によれば,裁判員裁判対象事件以外の事件のうち「公訴事実に争いがある事件」について,裁判員裁判対象事件に含めるべきであるという回答した人のうち約8割の人が,被告人に裁判員裁判による裁判を受けるか否かの選択権を付与すべきであると回答している。これは,殺人事件や強盗致死事件などの重大犯罪以外にも,痴漢えん罪など裁判員の市民感覚を反映すべき事件がある一方で,一律的に裁判員裁判対象事件とすることは,被告人に未決勾留期間の長期化の負担を押しつけることになるから,被告人の意思を尊重し,被告人に選択権を付与すべきという意見が多くなっているものといえる。


第四,岡山弁護士会からの提言
 1,対象事件の見直し・被告人の選択権の導入
 (1)今回のアンケートでは,公訴事実に争いがない事件についてまで,裁判員裁判の対象とすべきか否かについては,意見が分かれた。対象とすべきではないとの意見は争いがない事件の公判の長期化がその根拠となっており,逆に対象とすべきとの意見は量刑判断を裁判員に委ねることの意義が根拠となっている。このように,公訴事実に争いがない事件を裁判員裁判の対象とすべき否かは,裁判員裁判を経験した弁護士間でも意見が分かれている。同様に,強姦致死傷事件のように性犯罪を裁判員裁判の対象とすべきかについても,賛否が分かれている。これに対して,現在は裁判員裁判の対象となっていないけれども,公訴事実に争いがある事件についても裁判員裁判の対象とした上で,被告人に選択権を与えるべきであるとの意見は多数を占めた。
 (2)そもそも自白事件で争点が乏しいケースで迅速な裁判を求める被告人が裁判員裁判を望まないケースもある。また,性犯罪事件のように,被害者のプライバシー保護が問題となる事件では,通常の裁判官による裁判よりも時間的制約があり,かつ被害者のプライバシー保護による制約という二重の制約があるため,十分に防御権が行使できないケースが散見されるためであろう。さらに,少年逆送事件のように調査記録の吟味が必要となる事件でも,時間的制約によって十分に調査記録が吟味されないまま判決に至ったケースもある。このように,事件の類型によっては,裁判員裁判になじみにくいものがある。ちなみに,アメリカの陪審制度では,陪審裁判にするか否かにつき,被告人に選択権を与えている。
 (3)以上の問題に総合的に対処するには,裁判員裁判を選択するか否かの選択権を被告人に与えるべきである。現行制度は原則として法定刑の重さにより事件の類型にかかわらず裁判員裁判の対象としているため,被告人の迅速な裁判を受ける権利を保障する観点から問題がある。今回のアンケートでも被告人に選択権を与えるべきとの意見は多数を占めている。加えて,現在は裁判員裁判の対象外とされる比較的軽微な事件でも,痴漢えん罪事件のように公訴事実に争いがある事件については,裁判官による裁判よりも裁判員の市民感覚に期待する被告人もいるであろうから,裁判員裁判の範囲に含めることもあわせ検討すべきである。
 2,区分審理・例外的合議体の積極的活用について
 (1)今回のアンケートによれば,区分審理や例外的合議体(小合議体)を経験した弁護人は一人もいなかった。全国的にも,区分審理はわずかな実例があるものの,例外的合議体は今まで一例も運用実績がないとのことである。
 (2)区分審理については,事件によっては,追起訴が全て終了しない限り証拠が開示されない現状を打開するには,追起訴が長期化するような事件ではこの制度を活用すべきである。但し,この制度を濫用すると結果的に裁判所の負担が重くなるので,活用すべき事件を吟味する必要がある。
 (3)例外的合議体は裁判官1名,裁判員4名の体制である。((1))公判前整理手続を行うことによって公訴事実に争いがないと認められ,((2))事件の内容その他の事情を考慮して適当と認められ,((3))当事者にも異議がないとの3つの要件(法2条3項)の下で,例外的に認められる合議体の構成である。これまでに例外的合議体の運用例が一例もないのは,もしかしたら,合議体内で1名だけとなる裁判官の負担の重さを配慮しているのかもしれない。法制定時には,例外的合議体での審判は,嬰児殺などのように類型的で量刑もそれほど重くない犯罪に限定されると考えられていた一方で,対象事件の件数が予想外に増加するなどの事情により,裁判員となる国民の負担が重くなったような場合には,例外的合議体が多用される可能性もないともいえないともされていた。にもかかわらず,この3年間に全国的に1件も例外的合議体が活用されていないのは問題である。法が一定の要件を定めて例外的合議体の運用を想定している以上,一定割合の事件では,積極的にこの制度を活用すべきである。例外的合議体であれば,裁判官は1名,裁判員も4名で済むから,裁判員裁判の長期化を回避する一手段となり得る。
 3,裁判員裁判の長期化の改善について
 (1)今回のアンケートでは,裁判員裁判によって公訴事実に争いがない事件が長期化したとの意見が圧倒的に多かった。これは,裁判員裁判では,裁判員の選任に要する期間や公判前整理手続きの期間が長いことによるものである。実際にも,最高裁の統計では,裁判員裁判の平均審理期間は8.5月(自白事件でも7.2月)となっており,自白事件でも起訴から半年後にやっと公判期日が入るかどうかという状況となっている。これでは,被告人の迅速な裁判を受ける権利の保障の観点からすれば問題があると言わざるを得ない。特に,裁判員裁判では保釈が従前よりも厳しくなっているとの実感を多くの弁護士が感じていることからすれば,尚更のこと迅速な裁判の保障は切実な問題となる。
 (2)まず,裁判員選任に要する期間の短縮はおそらく不可能であろう。この問題を回避するには,前記の被告人に選択権を与えることで,裁判員裁判よりも裁判官による迅速な裁判を優先する被告人には,そもそも裁判員裁判を選択しないことで問題を回避するしかない。
 (3)次に,公判前整理手続きの長期化についてである。
     まず,大前提として,裁判員裁判では公判自体は短期集中的に実施されるので,公判前整理手続の段階で十分に争点整理や証拠の吟味が行われる必要がある。従って,公判前整理手続が真に充実して中味のある手続きであれば,手続きが長期化したとしてもそれ自体に問題があるわけではない。問題なのは,十分な争点整理や証拠の吟味が出来ないにもかかわらず,徒に公判前整理手続が長期化しているケースが散見されることである。
     その要因として考えられるのは,以下の3点である。
    第1に,検察官の証拠開示が段階的・部分的に行われる問題である。
    第2に,裁判官や検察官の人員が不足している問題である。特に岡山地裁では基本的には第1刑事部と第2刑事部とが週を分けて開廷することになっているため,裁判員裁判の公判を同時に開廷することが出来ないとの問題が,結果として公判前整理手続きを長期化させることに繋がっている。
    第3に,弁護人の体制の問題である。
 (4)第1の要因については,現在のような,検察官請求証拠,類型証拠開示,主張関連証拠開示という3段階の段階的証拠開示ではなく,全面的な証拠開示に法改正すべきである。検察官が手持ち証拠を全面的に開示することで,段階的な証拠開示の手間が省けるし,ひいては当事者主義を徹底することにもつながる。
    第2の要因についてであるが,裁判官や検察官を大幅に増員し,十分に裁判員裁判に対応できる人的体制を整備することが必要である。弁護士人口だけが大幅に増加するような歪な今の法曹人口のあり方にメスを入れる必要がある。あわせて,裁判員裁判を支える裁判所職員や検察庁職員の増員も当然に必要である。
    第3の要因については,最高裁なども「弁護人の不慣れ」などと分析する問題であるが,被疑者段階から弁護人が付いていても,身柄が拘束されている被疑者との接見による準備には限界がある。起訴後も,証拠開示がなされるまでは同様である。言い換えれば,検察官が証拠を開示して初めて弁護人の本格的な準備活動が開始されるのである。従って,検察官の証明予定事実記載書面の提出後直ぐに弁護人の予定主張記載書面の提出を求められても迅速に対応できないのは仕方がない側面がある。また,前記のように検察官の証拠開示が段階的にしか実現していない現状では,弁護人が短期間にたくさんの証拠を吟味することはなおさら困難である。むしろ,この問題を弁護人側で解決していくには,弁護人の複数選任を義務化し,場合によっては3名以上の国選弁護人を選任することを裁判所も積極的に心がけるべきである。今回のアンケートでは負担感の増大を感じる弁護人が多数を占めており,複数選任の義務化はその問題の解決にも繋がるであろう。なお,以上の対策を講ずるには,法テラスの予算の増加も必要となろう。


2013(平成25)年3月11日
 

                                     岡山弁護士会
                                      会長 火 矢 悦 治

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