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全体イベント・相談会意見表明
生活保護に関する偏見や差別を助長しない報道と,生活保護制度についての慎重な議論および適切な生活保護行政の実施を求める会長声明
2012.08.08
1 人気芸能人の母親が生活保護を受給していたことについての報道を皮切りに,生活保護受給者に対する偏見につながる報道が続いている。
 生活保護の不正受給が横行しているかのような報道,在日外国人が生活保護を受けていることが問題であるかのような報道,視聴者から寄せられた情報をもとにあたかも生活保護受給者の多くが資産や収入を隠しているかのような印象を与える報道がなされている。また,生活保護を受けることが恥であるかのような印象を与える報道も繰り返しなされている。
今回の一連の報道の発端となったケースでは生活保護制度における扶養の扱いが問題となった。この点については,生活保護法上,扶養については「民法に定める扶養義務者の扶養は保護に優先して行われるものとする。」と定められており(同法第4条2項),同法第4条1項のような「要件として」という文言があえて使用されていない。このことは,扶養義務者による扶養が実際に行われた場合にはその援助額だけ保護費を減額するということを意味しており,扶養義務者が扶養できないことは保護受給の要件ではないのである。これは,憲法第25条が生存権の保障を私的扶養の問題にせず,国の責務としているからである。
扶養義務者の扶養については,現在の運用においても,生活保護を申請すると原則として福祉事務所が親族に対して扶養の可否を尋ねる扱いがなされているが,これが障害となって保護を申請しない者が多数存在するとみられている。それにもかかわらず,扶養義務者の扶養をさらに強調することは,親族への負担や,親族関係の悪化への懸念から,生活困窮者が生活保護申請を断念する事態が更に広がる結果を招くおそれが大きい。
また,生活保護の不正受給は,金額ベースで全体の0.4%弱で推移しており,件数ベースでも2%弱で推移しているのであって*1,近年目立って増加しているという事実もない。
 徐々に冷静な報道もみられつつあるものの,先に述べた一連の報道は生活保護受給者に対する偏見や差別を助長し,真に生活保護を必要としている国民の生存を脅かすことになる。
2 2012年(平成24年)5月25日,厚生労働大臣は,生活保護を実施する際の扶養義務者への調査権限の強化,生活保護基準の切り下げを検討すると表明した。また,6月26日に衆議院で可決された社会保障制度改革推進法案では,「安定した財源を確保しつつ受益と負担の均衡がとれた持続可能な社会保障制度の確立を図る」(同法案第1条)と謳ったうえで,「家族相互及び国民相互の助け合いの仕組み」を通じて社会保障制度改革を実施していくとしており(同法案第2条1号),家族や国民の自助を強調している。さらに,同法案では,生活保護の「不正受給への厳格な対処」や「給付水準の適正化」などの見直しを実施するとされている。
ところで,生活保護利用者数は増えているものの,総人口に占める利用者の割合を示す利用率は1.6パーセントで*2,先進諸国との比較でもいまだ利用率は非常に低い状態である*3。また,保護を必要としている世帯のうち実際に保護を利用している世帯の率,すなわち捕捉率は15.3〜18%程度と推定されており*4,捕捉率も先進諸国との比較で非常に低い*5。さらに,厚生労働省の2009年(平成21年)の調査によれば,等価可処分所得の中央値は250万円で,その半分にあたる125万円未満の人の割合である相対的貧困率は16%であり*6,2005年(平成17年)段階でもOECD加盟国30カ国の中で,日本の相対的貧困率は,メキシコ,トルコ,アメリカに次いで4番目に高いとされている*7。非正規雇用の拡大によって雇用が不安定化し,格差と貧困が広がっているというのが日本の現状である。
以上の現状を踏まえるならば,今後,上記一連の報道に便乗して安易な生活保護基準の切り下げや受給抑制策がなされてはならない。生活保護基準については2011年(平成23年)2月にすでに社会保障審議会に生活保護基準部会が設置され,生活困窮者の生活支援戦略については2012年(平成24年)5月から社会保障審議会に特別部会が設置され,それぞれ議論が進められているが,政府,国会,および,生活保護実施自治体は,過熱する報道に惑わされることなく,生活困窮者の実態調査に基づいて慎重に生活保護制度を含めた生活困窮者支援制度の在り方を検討する議論を深め,適切な生活保護行政の実施に当たるべきである。
3 以上の通り,当会は,報道機関に対して生活保護受給者に対する偏見や差別を助長することのない配慮ある報道を求めると共に,政府,国会,および生活保護実施自治体に対して生活保護制度についての慎重な議論と適切な生活保護行政の実施を求める。
以上
 
*1平成24年3月厚生労働省社会・援護局関係主管課長会議資料。
*2福祉行政報告例に記載の被保護人員実人員数を,総務省統計局発表の人口統計で割って率を算出。平成24年3月時点。
*3利用率について,ドイツ9.7%,フランス5.7%,イギリス9.2%など。いずれも2010年(平成22年)時点。「生活保護『改革』ここが焦点だ!」(生活保護問題対策全国会議編集)より。
*42007年国民生活基礎調査に基づく推計。
*5捕捉率について,ドイツ64%,フランス91%,イギリス47%以上など。いずれも2010年時点。「生活保護『改革』ここが焦点だ!」(生活保護問題対策全国会議編集)より。
*6平成23年7月厚生労働省・大臣官房統計情報部社会統計課国民生活基礎調査室発表
「平成22年 国民生活基礎調査の概況」より
*72005年OECD 調査。OECD 2008Growing Unequal? Income Distribution and Poverty in OECD Countries.」より。
 
2012(平成24)年8月8日
                                                        
岡山弁護士会
                                                           会長 火 矢 悦 治
 
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